ミクロモザイクの世界への考察、クラフトマンの美の結晶
終わりの見えないロックダウン中のベルギー、なんなら4月なのにここ最近雪が降ったりして、ちょっとおかしなことになっている。
そんな時でも美術館はかろうじてオープンしているので、唯一文化的体験が出来たりして、文明のありがたみをかみしめたりする。
わたしの住む街アントワープはダイヤモンドの研磨の聖地として有名で、またダイヤモンドビジネスと密接な関わりのあるユダヤ人の大きなコミュニティがあり、産業の発展に大きく関わってきた。
そんな我が街にある『ダイヤモンドミュージアム』通称“DIVA”に行ってきた。
今回のお目当てはダイヤモンドでは無くて、特別展で展示されていた”ミクロモザイク“の世界。
ミクロモザイクとは、イタリア発祥で、ガラスを溶かしながら色を配合したり金太郎飴の様に模様や形を作って細く伸ばし、それをカットしながら埋めていくという手法。
これは18世紀にヴァチカンのサンピエトロ寺院にある数々の名画が、集まる人の熱気や埃によって劣化してしまうため、その名画のレプリカを作るためにうまれた技術だ。
35点以上に及ぶ堂内全ての油彩画をモザイク画に変更するため、1727年にヴァチカンモザイク工房が設立され、腕利きの職人が数多く集められた。
ただ、高い技術を持つ彼らも、計画が完成すれば職を失う期限付きの労働者。そこで、事業が終了した後も安定して稼げる様に何か別の形で利益を生み出す必要があった。
そこで、同じ技術をもっと緻密に表現して、持ち運びの出来る小さな作品、たとえばブローチやピルケースなどにモザイクを施すという新たなビジネスを成立させていった。
作品を近くで見ると気が狂いそうになるほどひたすら細かい。わたしも細かい作業は得意だけど、これは10万ピースのパズルを組み立てるくらい根気がいるし、何せ美的センスも必須だ。
18〜19世紀、当時イギリスなどで流行していた「グランドツアー」と呼ばれる、いわば貴族たちの修学旅行への高級土産として売り出したところ、大ヒット。風景画をモチーフにした作品はいわば当時のポストカードみたいなもの。
わたしたちの修学旅行土産は、気分が盛り上がって買ってしまった謎の品々が大半だったけど、もしわたしが18世紀の貴族だったら、こんなに美しい修学旅行土産は一生捨てられない。
その後わずか数百年でその技術が途絶え、今では世界の博物館やコレクターの手元にのみ残る貴重なお宝。近年のガラスは色味が違うために、この時代のミクロモザイクを再現するには困難で偽物も出回らず、サザビーズなどのオークションでも強い人気なのだそう。
オークションで出回っているもので、
上記写真の鳩のモチーフのピルケースがだいたい100万円くらいだそう。。。
当時のお金持ち修学旅行生たちはいったいいくらで買ったんだろうか。
なにはともあれ。。。
買えないけど。自分の目で見れて幸せ。
18世紀の壁画の職人たちが生み出した芸術は、
21世紀のロックダウンで疲れた
現代人の眼とこころを、確実に癒したのだった。