個性的プリン
この間、実家の冷蔵庫を開けたらプリンがあった。
瓶に入っているようなものではなく、スーパーやコンビニでよく見かける、プラスチックパック三個セットのプリンだった。
三個のうち二個が既に食べられた状態で冷やされている。一つだけ残されたプリンと、ビリビリに破けた薄い透明のビニールと、プリンの底の型がついた、長方形の台紙があった。
きっと私より先に家に帰った家族の誰かが食べたのだ。
冷たくなった一つのプリンが「はやく食べて欲しいですぅ」としくしく泣いている妄想をしてしまい、なんだかいたたまれなくなったので、冷蔵庫から出して食べてあげることにした。
プリンのフタって、金属がフィルム状になったみたいで面白いよね。街中の金属が急にこんな風になったらどうなるのだろう?ビルはふにゃふにゃになるだろう。橋もふにゃふにゃ。フォークもスプーンもみんなふにゃふにゃ。
空想の世界で世界をふにゃふにゃの大惨事にしながらフタを捲ると、クリーム色のプルプルとした物体が姿を現した。
プリンはとてもシンプルな味で美味しい。が、どうしても気になることがある。
他二つのプリンは、どんなプリンだったのだろう。
私以外の誰かが食べたプリン。
わかっている。それは私が食べたプリンと同じなのだ。そんなことはわかっている。急にバカになったわけではないので安心していただきたい。
もちろん工場生産のプリンなので、私が今食べているプリンと同じに違いないのだ。
しかし、どうしても考えてしまう。
頭が勝手に空想の物語を作ってしまう。
例えば他の二つのプリンには、アラモードのように、メロンやマンゴーなどのゴージャスなフルーツが乗っていたかもしれない。
もしかしたら牛乳プリンや、焼きプリンだったかもしれない。
もしかすると色もクリーム色じゃなかったのでは?例えばピンクや水色。
形が不思議だったのかもしれない。星型のプリンや、みんながアッ!と驚いて取り出さずにはいられないような、テンセグリティ構造みたいなプリンだったかもしれない。
そんなわけない。そんなわけないからこそ、空想はどんどん広がっていく。
この平凡なプリンが一つだけ残されてしまったのは偶然ではなく、必然だったのかもしれない。
プリン工場で個性豊かなプリンたちがプルプルと震えながら、ベルトコンベアの上を移動している様子を想像する。
そんな個性的プリンが集まる中、このプリンはたった一人、シンプルな形や味わいを守り抜いてきた硬派なプリンだったのかもしれない。
何かに染まることを許さない、純潔な精神の作り出す味わいを、私は噛み締めなくてはならない。かもしれない。
かもしれない。
どうなんですか?
プリンにそう尋ねてみようと思ったところ、もうすでに食べ切ってしまっていて、私は真相を聞き逃した。