コーチングには正解はない。2つの国際コーチング機関の比較から見えたもの
日本には、米国発の国際コーチング連盟(ICF)の支部しか存在していませんが、国際的なコーチング機関はいくつか存在します。
私はこれまで、日本に支部があるICFの「コーチのコアコンピテンシー」や「レベル(ACC/PCC/MCC)」を参照してきました。
ICFは、幅広いコーチングの取り組みを包含し、多くの場面で役立ちます。
何よりも、様々な流派のコーチングが存在する中で、コーチの成長の「土台」として表現をまとめていることに心から敬意が湧きます。
同時に、コーチングの探究や実践、歴史の振り返りなどをする中で、ICFが定義しているコーチングは、あくまで「ICFが捉えるコーチングの視点」に基づく表現に限定されており、それが全てでないことにも気づいていきました。
そんな中、私たちにとって馴染みのあるICFと、
国際コーチング機関としてはICFの次に会員数が多いヨーロッパを中心とするEMCC(European Mentoring and Coaching Council)の「コアコンピテンシー」や「コーチのレベル」、そして「倫理規定」と比較してみたいという衝動が湧き、探究仲間のさきえるに声をかけ、数回にわたって比較、対話をしてみてみました。
今日は、その探究の中での学びや気づきを箇条書きにして書き残して見ます。
ICFとEMCCは、それぞれの文化的背景や設立の経緯が異なるため、「コーチングの定義」自体がそもそも異なります。それに伴い、「コアコンピテンシー」や「レベルの定義」、「倫理規定」にも違いが見られます。
特に象徴的なのは、EMCCの名称に「メンタリング」が含まれていることです。ヨーロッパではメンタリングが先に普及しており、コーチングは後から加わりました。その結果、EMCCの定義や基準にはメンタリングの要素が色濃く反映されています。
成長レベルの定義(ICFのACC/PCC/MCC。EMCCのFoundation /Practitioner /Senior Practitioner /Master Practitioner)ではメンタリングが含まれていることがわかりやすく反映されています。EMCCのFoundationレベルは、日常やビジネスの中で活かすコーチング・メンタリングに焦点を当てていますが、ICFは「コーチングの職業化と質の向上」を目指して設立された背景もあり、初期レベルのACCでもプロフェッショナルとしての活用が前提とされています。
ICFはEMCCよりも会員国数を比較してもグローバルに展開されています。なので、ICFは米国のみならず、米国以外も研究対象に入っているとは思いますが、ICFのコアコンピテンシーやレベルの定義は、EMCCと比較すると個人主義的な文化背景が色濃く反映されているように見受けられます。一方で、EMCCはシステミックアウェアネスやダイバーシティなどのキーワードが多く記載されており、協働的でシステム全体を意識したアプローチが特徴になっています。
この違いは、各機関が根付いている文化的背景や立ち上げ経緯に由来している可能性が高いです。ICFが主にアメリカ発祥で個人の成長や自己責任を強調しているのに対し、EMCCはヨーロッパを中心に、複雑な社会システムや多様性への感受性を強調しています。これにより、コーチングの実践においても、クライアントを取り巻く環境や組織の中での役割に対する理解が深まるのがEMCCの特徴となっていると捉えられます。
ICFのコアコンピテンシーやICFの最低資格基準(Minimum Skills Requirements)は「コーチングセッション中」に焦点があたっていますが、EMCCは一人ひとりのコーチに「業界全体へのコミットメント」や「クライアントシステムへの影響意識」といった、より広範な視点を求めていることも特徴的です。例えば、EMCCには「メンター/コーチとしての結果の評価文化の確立に寄与する」という視点が入っており、業界が健全に発展していくことを願う視点が際立っています。
一方で具体的な「セッション中」の振る舞いを言語化しているICFの最低資格基準(Minimum Skills Requirements)は、コーチがコーチングの臨床技術を向上していこうとする際に参考にできる非常に価値のあるものだと感じています。内容の好みはあるものの、ここまで言語化されていることに敬意が湧いてきます。
日本の文化は、言語面でも「主語」より「述語」を重視し、個人主義より集団意識が強い背景を持っています。そのような文化背景だからこそ、アメリカ的な「主語」を強調するコーチングに価値がでるとも捉えられますが、一方で、日本の文化に照らして考えると、EMCCのアプローチがより適しているようにも感じます。(個人的には、業界発展の視点を一人ひとりのコーチが持つことや協働的でシステム全体を意識したEMCCのアプローチに強く惹かれたため、推奨したくなる部分もありましたが、EMCCがメンタリングの文化的影響を色濃く受けていることから、ICFとEMCCのどちらが日本にフィットするかは一概に言えないという気づきに至りました。)
こうした比較を通じて見えてくるのは、「コーチングに一つの基準はない」ということです。
ヨーロッパの文化的背景や、それぞれの機関の立ち上げ背景やその後の発展の歴史に付いての理解がまだ追いついていないため、現時点での私の理解からの気づきではありますが、とっても面白かったのでシェアしてみました。
本当は、なにかバシッとした提言のようなものにまとめられるまで探究をしてみたいな〜と思っていたのですが、想像以上に奥深かったため、現時点版での気づきのシェアでした。
もし関心が湧いたら、具体的にどのように異なるのか比較してみると面白いのでおすすめです。
倫理規定
コアコンピテンシーと最低スキル基準