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餃子の口だった夜

午後6時半。「お疲れ様でしたー」と会社をあとにする。

同僚には気づかれていないけど、今の私は完全に餃子の口。

パリパリの皮を、お酢と胡椒が入ったタレにつけて口にポイッ。それをビールで流し込む。そんな完璧な流れが、自分の頭の中で無限ループしている。ああ、早く餃子をください。

今日は家族が大集合して、目黒で餃子を食べるのだ。グルメで大袈裟な母が「人生で2番目に美味しい餃子」と豪語するのだから、まあトップ10には入る美味しさだろう。

とは言え、お店は大の人気店。予約ができないから、入れるかは一種の賭け。そわそわしながら電車に乗っていると、「一足先に言って、席取っとく!」と兄弟の愛からのLINE。ナイス!!愛!あんたはできる女だ。

目黒につくと、再び通知が。

「今日お店、やってなかった」

食べログには「定休日・火曜」の文字。なんという痛恨のミス。どうしてチェックしなかったんだろう。ばかばか!わたしのバカ!

気持ちを切り替え、目黒の立ち飲みビストロなるところへ。後から合流した父が、「もう完全に餃子の口だよ」と、うらめしそうにビールをすする。

餃子に敗れた私たち。気を取り直し、ビストロのメニューに向き合う。「エゾジカのレアかつ」「パクチーポテサラ」「10種野菜のアンチョビソテー」。心躍る名前の数々に、さっきまでの落胆を忘れて、メニューに釘付け。

気になるものを好き放題に注文して、食べる、しゃべる、食べる。

ルッコラとトマトのサラダに、温野菜のゴルゴンゾーラチーズ乗せ。母のトルコ旅行の思い出に、巨人優勝と父の号泣。

エゾジカのカツレツに、旬野菜のフリット。

昔に飛び降りた沈下橋と、康太郎のプロテインビジネス。2種のパテ、牛肉のカルパッチョ、新生姜のパスタ、ガーリックライス。

年をとると自分の話ばっかりしちゃうよね、って話しをして、最後にゴルゴンゾーラのアイスといちじくのコンポート。ワイン4本を空けて本日の食事は終了。

餃子の口はどこへやら。大いに食べて、笑って、喋って、食べた。そんな夜だったとさ。



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