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あの日の涙を思い出した時、わたしはどうしようもなく幸せに、また涙を流すことができるーー『天使たち』のこと


『天使たち』、大好きな人たちと、生きながら感じる苦しさを共有して、全然綺麗なばっかりじゃない、自分たちが正しくもない中で、私たちが作ることが出来た映画。一本の映画。


映画が誕生して、130年が過ぎて、誰でもが自分の手元にある端末を使えば、“映画”を撮ることができるようになった。それでも、本当に「映画」と呼ばれる様になるには、一人では到底できるはずのない過程を踏んで、たくさんのお金が動く。何かを作って表現しようとする時、誰も傷つかない、なんてことは幻想なのかもしれない。監督が作品を書き上げるまで、作り上げるまで、その生みの苦しみや痛みに伴った時間は、その作品が出来上がったことでしか救うことが出来ないのかもしれない。


一人で外を歩いているとちょうど一年前のことを思い出す。

私は寒さがとても嫌いで、身も心も凍える冬を心底憎んでいる。

私はスカートをあまり履かない。特に短いもの。ノースリーブもあまり着ない。母から受け継いだ二の腕と太ももにつきやすい醜い脂肪が、常に「見られている」気がするからだ。

よっぽど好きな人に会いにいくのではない限り、普段はズボンを履いていて、その下に厚手のタイツも履く。それでも顎が震えてしまう寒さの中で、一年前の私は、ヒートテックも着ずに、ガールズバーの女の子として短いスカートを履き、歌舞伎町に立っていた。別の日はフリフリのタンクトップを着て、夜の街と、温かい日差しの空を見た。

ある日は、あまりの寒さに泣いてしまった。初めての映画撮影で、深夜起きていることも苦手な私は、その時、もう出来ないかもと思った。あの通りに立ち、品定めされる感覚とタバコの煙が私を凄く孤独にさせた。だからこそ知らないうちに自分ばかりを見つめていて、人を傷つけてしまった。自分のなかの真っ直ぐすぎる感情は、あまりにこの作品には不誠実だった。
「私は向き合う立場にないのかもしれない」と思った。


一人、前の映画には関わっていなかったこと。年齢や学年が違ったこと。

私は、この映画には必要かもしれないけれど、私は同じ様に仲間の「大切」にはなれないのだと、その時は思った。そこに確かに存在する不可侵な絆を見て、羨ましく思い、また独りだと思った。

でも、大切な人たちで、大切な機会であることには変わり無かったから、もう誰も傷つけないように、自分のできることをやるべきだと思った。

私も「我」が強いから、私に似た人間が分かるし、等しく愛されことがないことも分かる。

年下ということが、ある記憶を共有できないことが、誰かの気に触る気がした。


それでも、私たちが、あの場で共有することができたのは「傷」だった。もちろん、傷は絆でもあり愛でもあった。でも、傷があることを慈しむことができる、その感覚は傷がある、私たちだけのものだと思った。そしてそれは揺るぐことがなく、その傷で痛みで、自分やあの子を救おうとすること、は、確かにそこにある私たちだけの宝物だった。

なる、というただ一人の女の子を、私が演じて、マリアという神さまが私の前に現れた。

本当は天使であるはずの私たちを、ただ包み込むあの日の光は本当に美しかった。

笑顔も泣き顔も、全部きっと本物だった。


そうやって出来た映画は、技術とか、歴史とか、そういうのではなく。

それでも、独りよがりでもなく、とても美しい、力のあるものだった。

自己決定性を持ち、私やあの子のために存在している。

ナイマさんと奈那さんに挟まれて、初めて大きなスクリーンで、エンドロールが流れ始めたあの時の涙を、私はどうしようもなく幸せに、思い出すことができる。

少しでも、この作品のために、私がいま生きる意味を持つことができるなら。

美しいだけのものでは、私は動くことはできない。人と人として、向き合い、ぶつかり、それでもこの映画が完成したことに、私は最大限の敬意を払いたい。

そうやって、作り上げることのできる人は強い。人が愛したいと思う人間でいることができること、そして諦めないことは、本当に誰よりもただ純粋に、抱きしめられるべきことだと思う。

本当にありがとう。

もっともっとこれから多くの人に届く様に、私は自分の声が枯れるまで、あなたの私たちの映画を届けるため叫び続けたい。

誰かがいなくちゃ、自分だってわからない。でも、私がここにいることは絶対に嘘じゃないって、そう信じさせてくれた。
これからも一緒に笑っていたい。
ひとりでは、あそこにいたままの私では、絶対に見ることが出来なかった沢山の景色をみんなで見たい。


見てくれるあなたのことも、絶対にひとりにさせないから、一緒に走って、また会おう。

死ぬなんて、もう言わないで。 


映画『天使たち』

2025年5月、テアトル新宿・梅田にて。


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