きっとお彼岸だから
朝からずっと祖母のおはぎが頭の中でちらつく。
食べたい。
叶わぬ願い、だけど食べたい。
年に2回、お彼岸の度に必ず作っていた。
おそらく最後に食べたのは、わたしが小学校高学年の時。中学に入った頃には祖母は入退院を繰り返すようになっていて、中学2年の秋のお彼岸には、もうこちらの世界にはいなかったから。
残念なことに誰も祖母の味を継承していない。あの味の再現は誰にも出来ない。永遠なんてないと分かっていても、それでもどこかで、これからも食べられると思い込んでいた気がする。
今までにも、不意に懐かしくなったことはある。けれどそういう時は、あー美味しかったよねと笑って思い出したあと、スーパーでおはぎを買ったらそれで満足出来た。
今回はどうしたことか、懐かしくて、懐かし過ぎて淋しい。おはぎはもちろん、おはぎを口実に、“ばーちゃん”に会いたい。そう思う自分がいる。
どうしたらいいのかな。なぜだかこの方面にだけは幼少期から物分かりが良くて、この世から旅立った人を思い出して懐かしむことはあっても、また会いたい、いつか会えますようにと思うことがあっても、今会いたいなんて叶わぬ夢を口にすることは今まで一度もなかった。
今、会いたい
今、一緒におはぎを作って食べたい
叶わなくても、心の中に閉じ込めておけないから書いておく。おはぎのことで覚えていることも書いておく。
もち米は前夜に洗って水につけて浸水させていた気がする。
お彼岸の日、祖父母宅へわたしは朝9時頃行っていた。(徒歩5分くらい)
炊き上がったもち米をつぶす、ハンゴロシにするところからがお手伝い。
楽しいことだけやらせてもらっていた。わたしがいない方が、作業効率が良かっただろうなと思う。
けれど毎回楽しそうに嬉しそうにお手伝いをして、美味しそうにおはぎを食べる孫に嫌な気はしていなかったと思いたい。
そこそこの数を作っていて、お重とお皿に完成したおはぎを並べていた。
11時半頃には全てが完成したら、近所の遠縁の家に、風呂敷で包んだお重のひとつを届けに行くところまでがお手伝い。
お昼ご飯はもちろんおはぎ。お昼過ぎか夕方にお重をひとつ抱えて自分の家に帰宅。夕ご飯、残ったら翌日の朝ごはんにおはぎを食べた。(普段の食卓同様おかずがあって、ご飯がおはぎだった。父はお茶碗のご飯も食べていたかもしれないけれど、とにかくデザート扱いではなかった)
春も秋もいつでも、おはぎと呼んでいた。
(豆知識で、春はぼた餅、秋はおはぎと呼ぶことも教えてもらったけれど、作る時はいつでもおはぎと呼んだ)
お店で売っているおはぎよりも、かなり大きかった。(となりのトトロで、「かぁちゃんから、ばぁちゃんに」と、カンタ君が届けてくれたおはぎくらいか、あれよりももう少し大きいイメージ)
あんこは粒あん、祖母のお手製。おはぎを作る時には冷めていたので、前夜か朝早くに炊ていたのだと思う。
粒あんでくるんだおはぎ一種類だけの時と、もち米であんを包んで、砂糖と混ぜたきな粉にくぐらしたもの二種種を作る時とがあった。
使ったきな粉が一度か二度、ウグイスきな粉だったことがあって、いつにも増して綺麗だなと思った。
青のりをまぶしたおはぎ、こしあんのおはぎは頂き物か買ったかで、売っているものを祖母とも食べたことがある。
今度は青のりのおはぎも作ろうと、何度か祖母にリクエストした記憶があるけれど、実現しなかった気がする。
祖母のおはぎとは関係ないけれど、ずんだあんのおはぎは、まだ実物を見たことがない。白あんのおはぎと黒胡麻のおはぎは、大人になってから見かけて買って食べた。
こんなところだろうか。
いきなりおはぎの思い出を書き連ねて、会いたい会いたいって言われても困るよね。
おはぎよりお墓参りにいらっしゃい!って言われるかな。思い出すくせに、会いたいというくせに、不精孫は、“ばーちゃん”をはじめとする、ご先祖さま御一行にご無沙汰してしまっている。
行かなきゃと思うのだけれど、行くなら実家にも帰りたくて、でも今帰るとここにずっといたいと言ってしまいそうで、うっかり引きこもってしまいそうで、それは避けたくて……。
ごめんなさい。今回もお彼岸を理由に皆さんへのご挨拶出来そうにないのです。
“ばーちゃん”に会いたいって言っておきながら、勝手だよね。
元気だった時の“ばーちゃん”の、呆れ顔が浮かんだ。これはちょっと怒られるかもしれない。むしろ怒られたいかもしれない。
“ばーちゃん”一緒におはぎ作りたいよ。
“ばーちゃん”のおはぎ食べたいよ。
“ばーちゃん”会いたいなぁ。
“ばーちゃん”だけじゃなくて、会いたい人が他にもいるけれど、呼ぶとどんどん淋しくなりそうだから、今日は呼ばないでおく。
あちらの世界でみなさん元気にされていますか?変な話だけど、元気でいてほしいのです。夢にご出演いただけると嬉しいです。
お墓参りは……もう少し待っていてね。ごめんなさい、ありがとう。
14ページ目、なんだろういつにも増してまとまらない。これは日記じゃなくて、彼岸へのお手紙なのかな。届いたらいいのにな。
切手は何枚貼ればいいだろう。宛先は“ばーちゃん”でいいのかな。往復ハガキで送ったら返信が……だったらいいのにな。
もしサポートをいただいたら……いただくことがあったら……どうしましょう??どうしたらいいのでしょう??その時に考えまずでも良いですか?