【ひとひら】チームの自己紹介
巫女が100人で踊る”遊び”
チーム発足当初は「巫女と神社のコンセプト」をよさこいに反映させることを目指しました。なのでビジュアルイメージは巫女さんと神社に寄せて『よさこい祭りに架空の神社チームがやってきた』かのような大規模なフィクションを作り出すことで印象的なイメージを定着させようとしていました。よく「100人の巫女が踊ってたら面白いでしょ?」という話をしたのを覚えています。その面白さは現在も引き継がれていると思います。よさこい祭りはそういう”遊び”だと考えて創作をしてきました。
作品性は少しずつ和風のテイストからワールドワイドなモチーフに変化してきています。2015年頃からはより振れ幅を大きくさせ、世界中のシャーマニズムや神話を作品に取り入れるようにしています。
『やさしさのチーム運営』
実際にそうであるかは置くとして、よさこいチーム全体に寄せられる「練習がきつい」「叱責される」「上下関係が厳しい」など、今でいうパワハラ集団的なイメージを払拭するべきだとも考えています。
よさこい祭りは踊り子さんが自費で参加するものです。チームの考え方を平たく表現するなら「お金を払ってまで叱られるような体験は良くない」というものです。なのでチームではいつも丁寧に指導するし、踊りが苦手な踊り子さんについてはスタッフで情報共有して担当するようにしています。
2023年度、新しい取り組みとして練習プランの大幅な変更を実施しました。土日に練習を集中させ、平日は補習練習にあてるという練習プランです。土日の予定が空けられない踊り子さんのサポートでもありましたが、それ以上に踊りに不安を抱える方々の拠り所があればいいと考えたのです。全体練習では聞きにくいこと、苦手なことを少人数で指導できたことは、チームの掲げる『やさしさのチーム運営』を体現できたのではないかと思います。
また振付動画を作って早めにシェアすること、衣装を快適にデザインすることも『やさしさのチーム運営』の一環です。踊り子さんにとってよさこい祭りに参加するハードルをどのようにして”下げるか”が、よさこい祭り全体にとって重要だと考えています。
’ひとひらシステム’
チームの振付は田村千賀先生が担当しています。いつも「簡単にしておいた」と本人曰く、ですがダンススタジオでいう”簡単”は素人にとっては難しい場合も多く、踊りの経験がない踊り子さんには努力が必要になります。
よさこいチーム’ひとひら’にとって’ひとひらシステム’は、踊り子さんをちゃんと踊れるように指導する必要性により生まれました。発足当時は2分強の踊りを作ってもらって、それに後から音楽をあてることで’ひとひらシステム’は成立しました。当時は端的に「振付の点数を少なくする」ことを目指していました。
現在では楽曲は4分強になり、振付の点数を減らす役割は’ひとひらシステム’にはありません。ですが「2曲目がある」ことにより練習の目標が明確になります。つまり、「次の曲がくるから1曲目は踊れるようになっておこう」というわけです。
’ひとひらシステム’はステージの表現としては心理トリックですが、踊り子さんの立場からすると「音を聞かなきゃいけないんだ」と気づかせる仕組みなのです。踊り未経験の方はどうしても形を真似ることに終始しますが、本来踊りは音楽を聴きながら体を動かすものですから、ちゃんと踊るためには目だけでなく耳を使わなければなりません。そこに気がつけたとき、振付の意味を理解でき、踊り本来の面白さを体験してもらえるものだと考えています。
クラブチームの最適解を目指す
よさこいチーム運営は膨大な予算と労力を要します。チーム規模が150人以上だった頃に「この規模感を維持するのは普通の社会人の集まりでは難しい」と実感し、少しずつ踊り子募集の人数を絞りはじめました。
ですが祭りは”ハレ”の舞台ですから、煌びやかさや豪快さは必要だと考えています。運営をスリム化し、予算を最適化し、デザインの力で美しさを維持することがチーム運営の大きな柱となっています。
もう少し楽にできるのではないか、無理している人が集中していないか、誰かが嫌な思いをしていないか、といった問題点を注視しながらフィードバックを続けていくことにより、ちょうどいい規模感のクラブチーム運営を目指しているのです。そのためには新しいアイデアやテクノロジーが必要不可欠です。
たとえば、夜の外練習では投光器とディーゼル発電機が必要でした。これは大きく重たいので、設営は基本的に男性がすることになっていました。現在はバッテリーLED投光器を採用して男女問わず設営と撤収が可能になり、発電機も不要になっています。
インターネットの発展とスマホの普及により振付動画も素早く配給することが可能になりました。振付動画の内容も単純な踊りをつなげたものではなく’鳴子インジケーター’や’前進動画’といったアイデアを取り入れ、県外から参加される方や練習になかなか来れない人の助けになっています。
『踊りをよくしたい』
コロナ期間を経て活動を再開するにあたり、「家族と職場以外の人と集まること」が最も重要だという考えに至りました。練習やイベント参加で踊り子さん同士が自由におしゃべりをして交友を深めることがチームの存在意義です。
そのためにも活動自体が真摯でなければならないと考えています。よさこいチームは踊りを磨くことが目的そのものですから、練習や経験を積むことはチームにとっても踊り子さんにとっても重要です。踊りはいつまでも終わりの見えない創作ですが、だからこそ磨きがいがあると思うのです。
逆に、踊りがおろそかになってしまうと参加するモチベーションは崩れてしまいます。
なのでチームの合言葉は『踊りをよくしたい』です。どうすれば踊りが”よく”なるか。上手いだけでなく自然に楽しんでいるか、むしろ上手さよりも笑顔ひとつで踊りは”よく”なったりします。踊りは嘘がつけないのです。
踊り子さんのサポート、隊列の管理、楽曲や衣装の制作など、すべて『踊りをよくしたい』という思いで成り立っています。当たり前のようですが、繰り返し唱えていなければ「踊りを上手く見せたい」「踊りじゃなくて打ち上げが楽しみ」になってしまいがちです。
踊りに対して真摯に活動していく姿勢がチームを続ける中心軸になっています。
コミュニケーションを向上させる
このチームの最も優れている点は「話が通じる」ことだと思います。どんなに難しい話、面倒臭い話もスタッフ同士でディスカッションを重ねることができます。踊り子さんとスタッフは垣根なくおしゃべりをする雰囲気は本当に貴重です。時々変わった人が寄ってくることもありますが、悪い人たちはこのコミュニケーション能力の高さを”障壁”と感じるらしく、近づいてくるもののすぐ退散します。悪いことをしたらすぐシェアされることを察知するのです。
スタッフと踊り子さんの上下関係は、実際はあります。それは責任の所在という意味で必要なことだからです。ですがだからこそ、対等な開かれたコミュニケーションはチームを助けるのです。問題が発生したときに言いにくいような関係であってはいけないと考えています。
これは『やさしさのチーム運営』と『踊りをよくしたい』に直結する考えで、わだかまり無く言葉を掛け合うことで様々な問題解決されていくのです。コミュニケーションを向上することはチームの重要な目標です。
あとがき
以下は著者の個人的な覚書きとして追記します。
2023年の楽曲「灰に覆われた世界に風よ吹け」の中に次のような歌詞があります。
荒天を告げる魔法を口ずさんで嵐と共に生きる
灰に覆われた世界に風よ吹け
降りしきる雨、雷鳴を吸い上げて変わっていくんだ
元々この歌詞はコロナ期間に”お気持ち”で強いられる嫌な思いを、踊り(ひとひらは風属性のチームなのです!)で吹き飛ばそうぜ、という意味合いで思いつきました。2019年の楽曲『Flowers』は植物としての花をテーマにした歌でした。今回の楽曲はその続きで、花から落ちた種が芽吹くためには雨が必要だった、という背景もあります。
嵐を呼ぶのですから物騒な話ですが、実際、世の中は嵐が吹き荒れるような1年だったように感じます。
よさこい祭りについても、新しい風が吹くべきだと常々考えています。従来通りで維持できる規模感ではなくなってきたし、受賞トレンド、あるいは前夜祭後夜祭の仕組み、テレビ中継のあり方など、変わらなければならないことは山積しています。
ひとひらが訴えているのは、チーム内においては『最適な規模』への変化であり、よさこい祭り全体については『現状維持で大丈夫?』という問題提起であり、踊り子さんについては『やさしさ』による心の変化、豊かさの実感を提供できればと考えています。直接的ではなく、詩的な芸術活動による変化を訴えているのだと僕個人は考えています。
現在、社会は大きく変容しています。AI技術の発展、ロシアウクライナ事変やイスラエル情勢、あるいはこれまで看過されてきた暴力が露呈し「それはいけないよ」と指摘される場面を数多く目にします。この変化の風はまだしばらく吹き荒れると予想しています。
そんな世界の中で、小さいながらも強い志のチームがあることを知っていただき、覚えていただき、ご助力いただけることを嬉しく思います。踊り子のみなさん、スタッフのみんな、スポンサーの皆様、応援してくださるファンのみなさんに、心より御礼申し上げチームの自己紹介を締めくくりたいと思います。
2023年12月
よさこいチーム’ひとひら’代表 西岡良治
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