【新作】フリュールの贈りもの 20200920
小さな森にひとり、小さな小屋で妖精が暮らしています。
彼女には友人が沢山います。
決して頻繁には会わないし言葉もあまり交わさないけれど、とても大切な、森の同居人が。
ある日、小さく小屋の扉がノックされました。
客人が訪ねてくるのはとても珍しいことです。
彼女の小さな友人たちは、普段は木の実やお花をこっそりと小屋の前に置いてゆくだけですから。
彼女がそれに気付いて扉を開けた時は、彼らは遠くからこちらをそっと見ているか、もう姿がないことも珍しくありません。
扉を開けると、川に落ちてしまったのでしょうか、頭から足先までびしょ濡れになったリスがいました。
そう、彼女の「小さな友人」のひとり。
彼女はリスを招き入れ、額をそっとくっつけて、リスに怪我がないことを確認しました。
どうやら寒くて温まりたかったようです。
柔らかいタオルでリスを包んで、暖炉に火を入れてあげました。
パチパチ、パチパチ。
暖炉から小さな火が起こり、ゆっくりと温まってゆきます。
しょんぼりと垂れていた尻尾はふさふさになり、耳もぴんと上を向きました。
どのくらい居たでしょうか、リスはすっかり乾き、彼女にぺこりと頭を下げました。
そして、どこに持っていたのでしょう、小さな手でころりと白い球をタオルの横に置き、窓の隙間から森へ帰ってゆきました。
これは何かしら、とても綺麗だけれど。
それはパールのようでした。
白く艶やかに光り、角度によって柔らかく光りを反射します。
彼女はそれがとても気に入り、窓辺でずっと高くかざして見ていました。
夜、眠りにつく前。
彼女はリスのことを思い出していました。
特にあの、濡れてしょんぼりしていた尻尾がふさふさと柔らかく立ち上がる様を。
枕元にはリスがくれた白く輝く球が飾られていました。
目が覚めると、彼女のベッドの上にはふわふわした飾りのついたものが転がっていました。
どうやら気に入りすぎて、眠りながら魔法を使ったようです。
球と同じ色の白、夜まで見ていたせいか濃い青、リスたちが走り回っている葉の色に似たカーキ色。
彼女はふと思いついて、視線の高さまで手のひらを持ち上げました。
折角リスがくれた贈り物、もう少し…。
そう、例えば、彼らの中に時々いる、綺麗な灰色のリス。
何色にも侵されない色。
秋になり色づく葉に近い色。
妖精の粉が、きらきらと渦巻きます。
『フリュールの贈りもの』
素敵な贈り物をありがとう、リスさん。
次に会った時は、美味しい木の実をご馳走するね。
20200920 一重梅 ichica