包丁で思いっきり指を切った時から、ますます料理が苦手になった
わたしは料理ができない。
出来ないというより、嫌いなのだ。
食べるのはあまり好きではないし、包丁が怖い。
包丁が怖ければ、調理ばさみを使えば良いのだが、料理をしたくない言い訳だ。
それでも、ひとり暮らしを始めてから、誰も食事を作ってくれる人がいないことに気がついて、慌てて料理を始めた。
なぜか、嫌いな魚を焼いたり煮たりして、嫌いだったのに食べられるようになった。
ある朝、みそ汁にカボチャを薄く切って入れようと思って、包丁でカボチャを切ろうとした。
張り切って料理教室で購入したばかりの包丁だ。
思いのほか固くて、思いっ切り包丁に体重をかけた。
その時、包丁の下に指があった。
グリっと音がして、指先から血が流れた。
止めようとしても流れ出て、絆創膏を貼ってみたが、全く役にたたなかった。
どうすれば良いのか分からなかったので、妹に「赤チン」を貸してほしいと電話した。
わたしの子ども時代は、怪我をすると「赤チン」を塗っておけば治ると言われていた。
だから、赤チンを塗れば、すぐに血が止まると思った。
妹に『病院に行った方が良いと思うけど』と言われた。
そうなの?と思って、職場に電話して、指を切って血が止まらないから少し遅れると言ってみた。
『病院に行かなきゃダメだよ』と言われた。
そうなのか?と驚きながら、自分で運転して病院に行ってみた。
血を止めるために輪ゴムを巻いていたが、運転中も血が止まらず痛みが増してきた。
病院に着いて、受付で指を切って血が出ていること痛みが増していることを話していたら、奥から看護師さんに「早くこっちへ」と言われた。
鞄の中から保険証を出そうと探していると、「そんなことは後で良いから早く!」と言われ、処置室に入ると、すぐにベッドに寝かされた。
輪ゴムをキツく巻きすぎて、指が紫色になっていたらしい。
そして、あと5ミリで指先が取れていたらしい。
そんなことになっているとは知らずに、お気楽なものだった。
多分、自分がそんな怪我をするとは思っていなかったので想像ができなかったのだろう。
塗ってもらって血も止まった。
お気楽にしていたが、その日は、指先を切る夢を見た。
その日以来、カボチャは切れなくなった。
そして、相変わらず包丁が怖くて、料理は苦手だ。
なのに、今でも包丁は自分で砥石で研いでいる。
もし、避難しなければいけないことがあって、そこで何かを作って食べなければいけなくなったとしても、わたしは役に立たない。
役に立たないわたしは、そこで食料をいただくことはできないと覚悟している。