友人A
いつも元気だね。
明るいよね。
怒ることある?
悩みとかあるの?
なにしてても幸せそう。
・・・・・・
私がよくいわれる言葉だ。
自分でも、その通りだと思う。
小学4年生のとき好きな男の子に告白して、「気持ち悪い」といわれた。そのとき、少女漫画の主人公にはなれないんだと気づいた。貧弱で色白でかわいい子、あの子たちだけがこの世の主人公で、大半は脇役、良くて助演だ。
私みたいなハッキリしない顔立ち、大柄、大股で歩き大声で笑うオンナは、主人公の背中を押す、やたらポジティブな友人役だろう。
それでも物語は脇役がいないと始まらない。だから私は、優秀な脇役になろうと思った。
生まれつきの大柄で、歩いているだけで怖がられることが多かったから、毎日鏡の前で笑う練習をした。悪口なんて言わない。言われたら笑いとばした。初対面でも話ができるように、全く興味のないアニメやゲーム、アイドルの知識も頭に入れた。いつでも笑い、自分からたくさん話しかけに行った。
どういう気持ちなんだろう? 私のことどう思っているんだろう? 機嫌がいいからなにかあったのかな。
いつだってそんなことばかり考えていた。気がつくと人々は私のことを、”素直で元気な明るい子”と言うようになった。
素直なわけじゃない。嘘をつくのが苦手だから、やめただけだ。
元気なわけじゃない。笑いながら大きい声で話しているだけだ。
明るいわけじゃない。読んだ本の話なんて誰も聞いてくれないから、話していないんだ。
本当は、ちがうのに、本当の気持ちなんてどうでもいい。人は私をそういう風に見ている。それが事実で、それが自分で作り上げた役なんだ。
別に不満があるわけじゃない。いつも元気に思われて困ることなんかないし、不幸面してるより、幸せそうな方がいい。怒っても腹が減るだけ、悩みもない。というか、人の悩みを聞いても悩む意味がわからない。
「メールの返信が返ってこないの!」
と怒る人がいた。大した内容でもないのに、返信がないだけで怒れるなんてすごいと思った。返信して欲しいなら電話で一言、「返信しろ」と言えばいいし、欲しくないなら怒る必要もない。それより怒っている時間が無駄じゃないか。
「別れたけど、元カレが忘れられない」
と泣く女がいた。忘れたいなら仕事でもなんでも時間を費やして、考える暇もないようにしたらいい。寄りを戻したいならもう一度告白すればいい。何を迷うのかわからない。
「やりたいこともないし、得意なこともない」
と悩む若者がいた。なくちゃいけないのか? どうしてやりたいこととか得意なことがないといけないんだ? ないならないでいいじゃないか。見つけたいならなんでもいいから、手当たり次第やってみたらいい。やり続けたら向き不向きだってわかるようになる。
怒ったり泣いたり悩んだりするなら、解決するために何かしたらいいじゃないか。解決できないなら受け入れるしかない。それだけだと、思う。
主人公たちは、怒ったり泣いたり悩んだりする行為そのものが好きなんだ。その、なんだかよくわからない不幸な自分が好きなんだ。その状況を楽しめる人が、主人公になれるんだと思う。
それなら、別に主人公になんてなりたくないと思った。