ヒトデナシ

人生のどうしようもなく消化できない気持ちを小説にしています。 人間味豊かなテイストが好きです。 よろしくお願いします。

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最近の記事

ごまだんご

久しぶりに胡麻団子を食べた。それはもちもちしていて、ぷちぷちしていて、馴染みのある味だった。きっと、某大型スーパーで大量購入したものだろう、と舌が教えてくる。食べたくて食べたんじゃない。天ぷらうどんセットにしたら、ミニデザートとして付いてきた。 学生の頃は大学へ行くバス停の前にあるコンビニで、胡麻団子をよく買っていた。初めて食べたときは ”こんなにもおいしかったのか” と驚いた。ただの餅も好きだったし、胡麻も好き、餡子はふつうだった。胡麻団子の餡があんなにも、ごまごましてい

    • 石の上にも3年、地獄にも3年

      「継続は力なり」昔の人の言うことは大体、正しい。何かをやりたいと思う人が1000人いたなら、それを実行できる人はせいぜい100人、継続できる人は5人いればいい方だと、思う。みんな何かと理由をつけて、やらない。やってみても続かない。 けれども、継続した先に何があるんだ? なんとか大会で優勝するとか、何級を取得するとか、目標があれば継続できるかもしれない。達成したその先は? 平凡な日々の積み重ね、何を達成したところで、その先に待っているのは死なのに、どうしてがんばれるんだろう。あ

      • チヤホヤされたいわけじゃない(小説ショート)

        ぐちゃぐちゃ考えたって明日は来るし、嫌なやつにも笑いかけなきゃいけない。愚痴ばかりの飲み会は果てしなくつまらないし、悩み相談と見せかけた自慢話は聞くに耐えない。 ウィーン、ウィーン ハイパワーで掃除機をかける。男性ばかりの職場は私が掃除しないと埃が溜まっていくばかりだ。オフィスの入り口にポツンと置かれた誰かからの頂き物、紫陽花の植木鉢には誰も気がつかなくて、放っておけば萎れている。誰がくれたのかすら、誰も知らない。黙っていればお菓子のゴミはあちらこちらに落ち始めるし、飲みか

        • たまたま(小説ショート)

          夜の9時をまわったころ、夜の空気はすでに眠りにつきそうだった。オレンジ色の光がポツリ、ポツリ、ひっそりと佇んでいる。太陽にいじめられた草木と湿った土の香りが時折り、大型トラックや、やけに賑やかな音楽とともに鼻先をかすめる。 人の気配が微かに残る大通りを横道に外れる。細い道に並ぶ民家はすでに暗い。ゆっくりと呼吸している。歩くたびにジャリ、ジャリ、足裏で砂利の擦れる音が鳴る。 やけに響く砂利の音を気にしなくなった頃、ベンチが見えた。背もたれはない。ただの板に4本の黒い脚、苔がビッ

          人と比べた瞬間に人は不幸になる。

          誰しもが聞いたことのある言葉で、誰しもがそんなことは当たり前だと理解している。それなのに、比べてしまう自分を消す手段を知らない。なんなら、比べて何が悪いんだと開き直ったり、とことん比べてやろうと思ったりする。 兄弟のいる家庭なら、兄弟同士で進む学校や性格を比べられることなんて日常だ。 「ママはいつまでもあんたが心配だよ」 末っ子だから心配しているのかと思ったら、どうやら違った。安心させてあげたいと思う。何かを選択するときの理由に母を使いたくないとも思う。安心させるために、とい

          人と比べた瞬間に人は不幸になる。

          後悔①

          「いま、どこにいるの」 「よくわかんない。杁ヶ池のあたりだと思う」 薄いポケットに入れたケータイが震える。電話だ。取ると、聞き慣れていたはずの声が、いつもより低く響く。1年半ぶりに声を聞いた。それだけで、喉の奥が熱くなる。 「なにしてるの」 「歩いてた。じっとしていられなくて」 「……散歩? 変わらないね」 小さな声で、呟くようにそう言った。大好きな人の声を聞き逃さないよう、電話に集中する。 「とりあえず、拾いに行くから、近くに何があるか教えて」 相変わらず低いトーンのままだ

          電車

          よく晴れた穏やかな日、半袖じゃ寒いけど上着を羽織ると若干、あつい。すぐ横にある窓から、やさしい光が時折り、顔をちらちらと照らす。 いつだって金はないけど、時間はある。新幹線なら2時間のところ、7時間かかる在来線を乗り継ぎ、僕は帰省していた。 タイヤと線路が一定のリズムと振動を伝える。車両の関節部分が軋む。若い女性の流暢な言葉が次の停車駅を告げる。外国語は流れない。染み付いた埃っぽい匂いがする。壁や天井、床は全体的に日焼けしている。車内には、僕を含めても3人ほどしかいない。草木

          くちゃくちゃ

          上目遣いに、ほんのわずかな時間、たまたまそこに目をやる。 咀嚼音が聞こえる。ドーナツ、ケーキ、ビスケットがおしとやかに整然と陳列している。よくわからない女性ボーカルのゆっくたりとした曲がひたすら流れている。リュックを背負う人の摩擦音、赤ん坊の泣き始めそうで泣かない声、主婦の愚痴話、オーダーを読み上げる細いがはっきりとした声、お皿を重ねる音、カップに湯が注がれている音、水道を捻る高音、車椅子のゴムが床との摩擦を起こしてスキール音が聞こえる。 斜め向かいに横並びに座っている母娘ら

          くちゃくちゃ

          初恋をこじらせて(小説ショート)

          ごぉ、背後から風が吹いた。コートの裾が脚に纏わりつく。 「さむっ」 誰にいうわけでもなく、つぶやく。冷たい風のなかに僅かな春の匂いが混ざっている。新宿駅の西側、小田急百貨店の近くで1本、煙草を吸ってから待ち合わせ場所に向かう。東京に来てから歩くのが速くなった。 「待たせてごめん!」 遅れて到着したのは私の恋人だ。1週間前に告白された。別に嫌なところもないので、つきあってみることにした。 「全然待ってないよ。行こっか」 友だちの友だち、よくある出会いだった。田舎から上京して6年

          初恋をこじらせて(小説ショート)

          キャラクター(小説ショート)

          夜中に目が覚めた。 眠りの途中で起きることなんてないから、はじめは起きたとも分からなかった。夢のなかかと思った。天井を見つめる。何の音もしない。 月が、孔雀の羽のように、冴えた青色を帯びている。月光がひっそりと、私の部屋に侵入して、もともと白だった天井に青い光を流した。遥か遠くで犬の鳴く声が聞こえる。世界には私しか存在していない、と思うほど静寂している。 視界の左端で何かが僅かに揺れたような気がして、視線を動かすと顔もほんの少し左に傾く。 2月、立春は過ぎているものの、寒い

          キャラクター(小説ショート)

          わからない人にわかってもらおうとしてもなんの意味もない

          「いらっしゃいませ、こんばんは〜」 そろそろ終電の時間だ。見慣れた顔が次々と入ってくる。疲れた表情をしている人が多い。 毎日のように来店する、ネイビースーツの小柄なお兄さん、マスク越しでしかお会いしたことはないけれど、ハッキリとした二重と筋の通った鼻からカッコ良さを感じる。いつもお弁当と炭酸飲料を1本、買っていく。お弁当は必ず温め、飲み物も同じ袋に入れる。家は近いんだろうか。この時期は冷えるので、通常より10秒長く温めた。 袖や裾のほつれたシャツに、ダメージを受けすぎたジー

          わからない人にわかってもらおうとしてもなんの意味もない

          お日様が少し傾いた昼過ぎ、意識の遠くで先生の声が聞こえる。新しく赴任してきた中年男性のゆったりとした低い声は、温かい教室に溶け込んでく。ふわふわと頭の上を漂うようで、薄れていく意識が心地良い。 なんとか持ち上がった瞼のなかに、窓が映った。隣にある小学校の校庭がよく見える。お昼休みなんだろう。子どもたちが縄跳びやサッカーをして遊んでいる。 消毒液と食べ残しの混ざった給食室の独特な匂い、砂と汗と少し鉄の匂いが漂ってきた気がした。 また目が開く。どのくらい寝たのかわからない。もう

          友人A

          いつも元気だね。 明るいよね。 怒ることある? 悩みとかあるの? なにしてても幸せそう。 ・・・・・・ 私がよくいわれる言葉だ。 自分でも、その通りだと思う。 小学4年生のとき好きな男の子に告白して、「気持ち悪い」といわれた。そのとき、少女漫画の主人公にはなれないんだと気づいた。貧弱で色白でかわいい子、あの子たちだけがこの世の主人公で、大半は脇役、良くて助演だ。 私みたいなハッキリしない顔立ち、大柄、大股で歩き大声で笑うオンナは、主人公の背中を押す、やたらポジティブな友

          おいしいコーヒー(小説ショート)

          コーヒーを飲む。 いや、飲むというとちゃんと味わっているような気もするから、ちがうか。 喫する。これはもっとちがう。まるでコーヒーを楽しんでいるように聞こえる。口に入れる。口に含む。もっと人間らしくない方がいい。飲下する。取り入れる。服する。もっと—— そんなことが考えながら、コーヒーを摂取したとき、向かいに座っていた友人はコーヒーを飲みながら、上目遣いで私を見た。 いや、見た、というより、私の座っている方向にぼんやりと目をやった、と言った方が正しい。友人の目は確かに、間違い

          おいしいコーヒー(小説ショート)

          嫌いじゃない(小説ショート)

          また髪の毛が落ちていた。 今週でもう、2回目だ。あれほど捨ててって言ったのに。 トイレットペーパーのホルダーには芯が残ったまま、洗面台では歯磨き粉が飛び散っている。 フライパンもお皿も洗っていない。 靴は脱ぎっぱなしだ。 気になっている。目についている。誰が決めたわけでもないルールを守って、生活している。 私が気になるだけなんだから、私が片付けたら済む話なのはわかっている。それでも毎回毎回、私だけが使用人のように掃除や洗濯をしていると、ついつい口走ってしまう。 「ねぇ、

          嫌いじゃない(小説ショート)

          危険な思考

          おかえり。 ただいま。 早かったのね。 パパ、きょうもお疲れさま。 ん、ありがとな。 明日は休みだから、みんなでピクニックでも行こうか。 たまには僕がお弁当作るよ。 あなた、ありがとう。 明日がたのしみね。 最適な夫、優秀な子ども、私はなんて幸せなんだろう。 国民全員にチップが埋め込まれ、人類の寿命や能力、思考までもが国で管理される時代となった。 危険な思考と判断された人間は排除され、世界から犯罪や戦争がなくなった。国が定める適齢期になると、遺伝子から選ばれた婚

          危険な思考