危険な思考
おかえり。
ただいま。
早かったのね。
パパ、きょうもお疲れさま。
ん、ありがとな。
明日は休みだから、みんなでピクニックでも行こうか。
たまには僕がお弁当作るよ。
あなた、ありがとう。
明日がたのしみね。
最適な夫、優秀な子ども、私はなんて幸せなんだろう。
国民全員にチップが埋め込まれ、人類の寿命や能力、思考までもが国で管理される時代となった。
危険な思考と判断された人間は排除され、世界から犯罪や戦争がなくなった。国が定める適齢期になると、遺伝子から選ばれた婚約者と結婚し、子どもを産む。最適な夫との子は必要な遺伝子を引き継ぎ、有能な子どもが多く生まれた。障がい者はいつの間にかこの世からいなくなっていた。
能力に応じて自動的に職を振り分けられ、夫婦のうちどちらかは家庭に入り家事や子育てを遂行する。
私のように特別な能力が判明しなかった女性は、優秀な遺伝子を多く残すために夫を共有し、子を残す。若くて健康な身体だけが取り柄で、夫と子のために生涯を費やす。
効率的に生産性が上がり、貧困もなくなった。
おはよう。
あなた、おはよう。
起きてくるのが遅いから、もうお弁当作っちゃったわ。
さ、顔洗って。
朝ご飯食べましょう。
悪いな。
いただきます。
ママ、これなに?
ああ、お弁当に入りきらなかったの。
スイカよ。カービングっていうらしわ。
本で読んだの。
お、おい、お前それ・・・
夫の顔を見てハッとした。
私は、私は、なんの取り柄もないただの良き妻でなければならなかったのに。
サイレンの音が、だんだんと近づいてくる。
ピクニック、行きたかったわ。