コトクラゲについて語らせてくれ!パート②昭和天皇によって採集された幻の生き物
コトクラゲの魅力をどうにか伝えたい3部作のパート②です。パート①を読んでない方はぜひそちらからお読みください!
ここがすごいぞ!コトクラゲ
パート①クラゲじゃなくてコトクラゲ
パート②昭和天皇によって採集された幻の生き物
コトクラゲは深海生物です。水深70〜300m付近に生息しています。
浅瀬の生き物よりも、深海生物のほうが採集が難しいということは想像に難くないでしょう。
さらにコトクラゲはとっても柔らかく脆い生き物。
一昔前の深海生物の採集方法といえば、底引き網で海底の生き物を一網打尽!という方法しかありませんでした。他の生き物と一緒に網の中でぐっちゃぐちゃにされてしまうので、コトクラゲはもし採れていたとしても生き物としての形を保てなかったと思われます。つまり採集が恐ろしく難しかったのです。
しかし近年、ROVや水中ドローンなどと呼ばれる遠隔操作の無人潜水機(採集機能付き!)の開発が進みました。おかげで深海生物が実際に海の底で暮らしている様子が撮影できるようになりました。さらに、生きたままの採集も比較的容易になったのです!
コトクラゲの採集が難しいのは分かった。では、どのくらい難しかったのか?次の図を見てもらいましょう。
コトクラゲが初めて記録されたのは1896年、相模湾にて。この時は他のどんな生き物とも似ていないということしか分からず正体不明の生き物とされました。そこから次に採集されるのがなんと45年後の1941年。しかも採集されたのは、海洋生物学者でもあり相模湾周辺での生物採集を継続的に続けておられた昭和天皇です。
この昭和天皇が採集された標本を元に、京都大学の駒井博士によりクシクラゲ(有櫛動物門)の新属新種コトクラゲとして発表され、45年の時を経てやっとその正体が明らかになりました。
これ以前にコトクラゲに似た生き物がグリーンランドの深海で見つかっていたようですが、その体長は約2cm。一方、コトクラゲはだいたい10〜15cm。こんなに大きな底生性のクシクラゲ類の発見は世界で初めてだったのです!
そしてコトクラゲの学名はLyrocteis imperatorisといいます。Lyrocteisは「竪琴のようなクシクラゲ」という意味。確かに形が竪琴(ハープ)に似ていますね。ウサギの耳のようでもありかわいい!
また、imperatorisは「皇帝」を意味し、採集者である昭和天皇へ敬意を表した名前になっています。
これにてめでたし!と思いきや、ここからなんと60年以上も誰も目にすることのない幻の生き物となってしまうのです。。。
もう一度コトクラゲ年表を見てみましょう!
次にコトクラゲが発見されるのは64年後の2005年!これがまさに、鹿児島沖で行われた無人潜水機(ROV)による採集の成果です。この調査で幻のコトクラゲを目の前にした方々の感動は計り知れません!
その後は採集ラッシュ!沖縄県沖や駿河湾、日本海側である新潟沖など無人潜水機の活躍により、思っていたよりもずっと広い範囲に生息していることが明らかになってきました。今回私が大洗水族館で見た個体は、四国初記録となる高知県沖で採集されたものです。
また、2020年には79年ぶりに昭和天皇が採集された場所と同じ場所でコトクラゲが採集されて話題となりました。
昔はたくさんいた生き物が今では姿を消してしまった…という話題を聞くことがありますが、今回はその逆!私たちの知れないところでコトクラゲという小さく不思議な生き物が命を繋ぎ続けていたと思うと、胸にくるものがあります。
そして採集された個体は貴重な標本として保存されるとともに、いくつかの水族館で飼育・展示されることとなります。
予告
パート③水族館の努力で解ってきた謎の生態
日本の水族館はすごいっ!日本人のきめ細やかさは多くの生き物の長期飼育や繁殖を実現してきました。コトクラゲもその一つ。不思議な生態が次々と明らかに。
おまけ
コトクラゲが展示されたことのある水族館(ひとでちゃん調べ)
※現在展示されているかどうかは分かりません。
鶴岡市立加茂水族館(山形県)
アクアマリンふくしま(福島県)
アクアワールド大洗水族館(茨城県)
葛西臨海水族園(東京都)
新江ノ島水族館(神奈川県)
沖縄美ら海水族館(沖縄県)
他にもココで見たよ!という場所があったら、ぜひ教えてください。