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コトクラゲについて語らせてくれ!③水族館の努力で解ってきた謎の生態

コトクラゲの魅力をどうにか伝えたい3部作のパート③です。パート①・②を読んでない方はぜひそちらからお読みください!

ここがすごいぞ!コトクラゲ

パート①クラゲじゃなくてクシクラゲ

パート②昭和天皇によって採集された幻の生き物

パート③水族館の努力で解ってきた謎の生態

水族館は飼育のプロです。生きたものを連れて帰って展示するだけでは終わりません。

素晴らしい観察眼と繊細な飼育技術のおかげで、60年以上その存在すら幻かと思われていた生き物の生態が次々と明らかになりました。

  • 食事の仕方

  • 繁殖の仕方

  • どのように成長するのか?

  • どのくらい大きくなるのか?

  • どのくらい生きられるのか?

  • 触手の意外な使い方

  • カラフルな体色の謎

などなど。たくさんあって語り切れるか分かりませんが、まずは基本のコトクラゲの体のつくりを見てみましょう!

コトクラゲの基本的な体のつくり

コトクラゲの体制

コトクラゲは子供の頃(幼生)と大人(成体)で体のつくりが異なります。
このように幼生から成体になる過程で体の形を変えることを変態といいます(イモムシ→蝶などが有名ですね!)。
変態は成体になるにあたっての生息環境や摂餌の変化に対応したり、繁殖行動をしやすくするために起こります。

無脊椎動物ほねなしは変態をするものがほとんどなので、変態をすること自体は珍しくありません。ただ、一般的なクシクラゲ類(有櫛動物)は一生海中を漂うプランクトン生活なので大人も幼生もたいして形が違わないのです。

しかしコトクラゲは大人になると底生生活を行う変わり者!
ということで、変態の過程で泳ぐための櫛板が消失します。また、触手をより高く遠くに伸ばすためでしょうか?触手鞘のある部分がウサギの耳のように伸びていきます。
ちなみに幼生は他のクシクラゲ類によく似ています。

変わらないのは口が下側にあること。
コトクラゲは何かに直接付着することで生活しています。しかしイソギンチャクのように吸盤でベッタリ張り付いているわけではなく、口側のフリルのようになった部分で基質を掴むようにくっ付いていると考えられます。じゃないとエサ食べられない。

実際には水深80m以深の潮の流れが強めな場所でヤギ類の骨軸(木の枝みたいなサンゴの仲間)や岩に直接付着していることが多いようです。そのほかにはカイメン類、ウニ類、コンクリートブロックやロープ、海底の石など…つまり周囲より少しでっぱった物なら何でもいいようです。高いところのほうがエサが取りやすいからね。

意外と動くぞコイツ

触手鞘に収めることのできる触手を持つ点も幼生と成体で変わりありません。この触手も有櫛動物では一般的で特別なものではありません。ちなみに刺胞動物のクラゲと違って、刺胞(毒針)は持っていないないので触手に触っても刺されません!その代わり触手はネバネバしており、その粘液にからめて獲物(小型プランクトンや有機物)を捕らえます。

さて、この触手は餌を捕えるためのものと当たり前のように誰も疑わなかったわけです。しかし、水族館でなんと触手を使って移動する様子が観察されたのです!

体の10倍以上の長さに伸びると言われている触手を伸ばして水流に漂わせ、遠くの物に絡ませる。そして自分の体を手繰り寄せるようにジャーンプ!して居場所を移動するようなのです。こりゃビックリ!

泳ぐのをやめて動かない付着生物と思っていましたが、泳がないなりに独自に動く方法を編み出したとは。動かない生き物なんてもう言えません!

ぜひ見れる方は下記の動画見てみてください!忍者みたーい♡

食べるための溝

私がコトクラゲに抱いた素朴な疑問。
「触手は上にあって、口は下にあったらどうやって捕らえた獲物を食べてるの??」
コトクラゲの触手は糸みたいに細いので、触手を口元にまで持っていくような器用なことができるとは考えられません。

これも水族館でしっかりと観察されていました!

櫛状の触手に獲物が引っかかると,コトクラゲは触手を触手鞘へひっこめて体のほうへ引き寄せます。そしてなんと、コトクラゲは体の側面に口までつながる溝があるのです。その溝を通過させて体の下部中央の口まで獲物を運んで食べるようなのです。

これが見ていると、スライムに獲物が飲み込まれていくような感じで不思議というかグロテスク。コトクラゲは半透明な体をしているので、獲物が運ばれていく様子がちゃんと見えます。

こちらも動画あるのでぜひ見てみてください!

そんなとこから出てくるの!?

コトクラゲは雌雄同体です。これは1941年に名前が付けられた時にすでに観察されていました。体の内部に精巣、卵巣、そしていろいろな発生段階の胚(幼生)が見つかっっていたからです。

しかし、水族館での飼育ではさらにその体内にいた幼生が出てくるところも観察されました。それがなんと、体表から出てくる!?

コトクラゲ、幼生が体の中で成熟してくると腕の先のほうの溝近くにオレンジ色の粒々が並んでいるのが透けて見えるのですが、数日後それがそのまま外に出てきたらしいのです。肉を突き破って出てきてるのか、小さな穴があるのかはまだよく分からないそう。

2mmほどで産まれた幼生は櫛板を使って泳ぎ、触手を使って餌も食べ、すくすく成長。60〜80日で櫛板が消失し、約3ヶ月で着底して底生生活に移ったそうです。

水族館では700日以上の飼育を記録し、野生では15cmくらいが多いコトクラゲですが、飼育下では最長30cmにもなったそう!すごーい。

コトクラゲの子育て

カラフルな体色の秘密

コトクラゲはカラーバリエーションがとても豊富です。橙、黄、白、ピンク、紫、白に赤の斑点、模様のあるものなど。何個か並んでいると、色とりどりのチューリップのよう♡

この色彩についても、幼生からの飼育に成功したことで新たなことが分かってきました。それは色彩は相伝ではないということ。親と同じ色が生まれてくるわけではなく、一つの親から様々なカラーの個体が表れるのです。

あと、着底してから徐々に色が現れるらしい!何色に育つのかわくわくだね♡

暗闇に暮らす深海生物の体色は透明、白、黒、赤あたりに落ち着くことが多いのですが、コトクラゲはなぜここまでカラフルになったのか。その辺はまだ謎のままです。でも謎の解明は一歩ずつから。確実にコトクラゲについて多くのことが分かってきています。

様々な体色のコトクラゲたち

コトクラゲが見られるってすごいことなんだぞ

最終章はすっかり長くなってしましました!ここまでお読みくださり本当にありがとうございます。

でも、本当に水族館ってすごいのです。私は分類家で標本にしてしまう人なので、ぶっちゃけ飼育は得意ではありません(標本として残すのはそれはそれで大事)。ましてや深海生物、未知の生物は特殊な飼育装置や繊細な飼育技術が求められます。

自然下での観察がことさら難しい深海生物の生態を明らかにするためには、こうした水族館の努力が不可欠なのです!

コトクラゲも他の無脊椎動物ほねなしも、水族館では脇役でしょう。
でも実はそうした生き物こそこれまでの水族館のノウハウを結集して飼育されている貴重なものかもしれません!

ぜひ見かけたら、足を止めて感動に浸ってください♡
私は触手出してるところは見られなかったから、今度は触手出してるとこ見たいなー!

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ひとでちゃん/ サイエンスコミュニケーター
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