【突撃!ナレトーーク】第11回 北村直也さん(後編)
ナレーター界を盛り上げるべく始動したメディアプロジェクト『HITOCOE』。
ナレーターのさかし(坂下純美)とあこ(甘利亜矢子)、そしてHITOCOE編集長のあきら(片岡あきら)が、ナレーターの皆さんのライフスタイルや人生観、それぞれの働き方を紹介していきたいと思います!
前回に引き続き、全盲にも関わらず幅広く活動しているナレーター・北村直也さんです!
前編はこちら!
ePARAへ繋がり、ePARAから繋げる
あきら:ePARAの社長である加藤大貴さんとの出会いってどんな感じだったんですか?
ePARAを立ち上げた加藤大貴さんはとても熱い方!
北村:ePARAが「障がい者のeスポーツっていうのやってるんだけどなかなか広がらない」と言っているときにePARAのマネージャの方と出会って、「直也さんゲーム興味ある?」と聞かれて「めっちゃやりますよ!」って答えたことがきっかけで、先ほどのパワプロの記事(前編を参考)を書いたのが始まりでした。
さかし:それがきっかけでePARAでの活動が始まったんですね!今もプレイヤーでありながらたくさんの記事を書いてらっしゃいますよね。
北村:2020年にePARAチャンピオンシップっていうイベントをやったんですね。
タイトルがふたつあったうちのひとつが格闘ゲームの「鉄拳7」(※格闘ゲーム)だったんです。僕、鉄拳7で出場してあんまりいいとこなく負けて終わったんですけど、その後「まず大会に全盲プレーヤーで出たっていうことが価値だから」とマネージャーの推薦をいただきました。そして「これからもっと挑戦していくぜ」みたいな記事を書いて、当時あった朝日新聞のGAMEクロス(※2022年3月末で更新停止)というメディアに寄稿させてもらったんです。そしたらPVがめちゃくちゃ伸びたらしくて、「実際に鉄拳をプレイしてるところを取材したい」とか問い合わせがありました。もうその記事が見られなくなってしまったのは残念ですが…。
あきら:まったく違う世界で、次元で物を捉えてるっていうのは、やっぱりみんな興味あるんですよね。
北村:あの記事をたくさんの人に読んでもらえたことは驚きでした、正直。
自分でもメディアに記事を書きますが、インタビューを受けることも多いです。eスポーツワールドというメディアにインタビューしてもらった記事があって、これは僕も所属しているePARA内のeスポーツイベント事業を手伝っている障がい当事者中心のバリアフリープロジェクトチームであるFortia(フォルティア)というチームができたときに、「インタビューしたいです」ってライターさんからオファーをいただいたものなんです。
北村:今ゲーミングPCのスポンサーになってくださっているサイコムという会社の専務の方が、この記事と僕の鉄拳のプレーを見て「自宅に環境がない方がいらっしゃるなら、サイコムのゲーミングPCを選手に提供しますよ」というオファーをくださったんです。
サイコムさんがゲーミングPCを公式に提供してくださった選手の第1号が私でした。それ以降、いろんな挑戦をするプレイヤーに対してサイコムさんがゲーミングPCを提供してくださる流れが続いています。
その縁でサイコムのYouTubeチャンネルに鉄拳プレーヤーとして私が出演させていただきました。そのときはさっき話した、音で確定反撃を教えてくれたプレイヤーさんと一緒に出演しました。
あきら:直也さんを中心にいろんな縁がいろんな人に結びついていきますね!
北村:自然と恩返ししてるのかもしれませんね。自分が縁に恵まれたと思っているので。
あきら:聴覚に全振りした中でeスポーツもできるし、声優もナレーションもできて、ライティングも…って、この尖った才能がいろんな人に刺さって「直也さん、おもしろいことやってますね」と言ってくれる人が増えて、さらにその人たち同士で繋がって、直也さんがハブになっていろんな人が繋がっていってる感じがありますよね。
北村:いろいろやりすぎて、最近自己紹介が大変なんですよ。
例えばePARAの商談では「eスポーツプレーヤーとして出演して発信もしていますが、ePARAの他の事業ではエンジニアとしてのスキルを発揮してエクセルを作ったり営業活動のお手伝いしてます」みたいに、自分としてはうまくまとめたつもりだったんです。
そしたら加藤さんが「補足なんですけど、彼は声優とナレーターもやってて」ってわざわざ付け足すんですよ。
それ言い始めたら長くなると思って自分でカットしたのに、ちゃんと補足してくれるっていう。
あきら:Fortiaを取材した記事でも「今現在はeスポーツプレイヤーを本業として活動をしているのですか?」の回答で「何が本業かと言われるとすごく難しい」って答えてますもんね。肩書きが「人間・北村直也」ですよね。
北村:今のePARAの名刺の肩書は「動くパワースポット」にしてます(笑)年に1回変えるのが恒例になってますね。
そういえば、ePARAが「本気で遊べば明日は変わる」ってステートメントを掲げて活動してるので一時期僕のTwitterのキャッチコピーを「本気で遊んで明日を変える」にしてみたことがあったんですが、フォロワーさんが僕のそのキャッチコピーをいいねって言ってくれて。それで「所属先のePARAが『本気で遊べば明日は変わる』にしてるから、そこに所属してる者としては…」って話したら、「へぇ~!初めて知った」と。
僕のキャッチコピーを先に認識してくれて、そこからePARAに繋がったことがありました。
さかし:直也さんから溢れてくるポジティブな空気というか、いろんなことに挑戦したり、大変なことももちろんあるんだろうけどそれ以上に楽しい!おもしろい!っていうのが伝わってくるから、みんながそこに寄ってくるのかなって気がします。
ネガティブを自分でひっくり返す
北村:僕のことをポジティブだと言ってくれていますが、もともとはネガティブだったんですよ。
さかし:え?そうなんですか?
北村: Twitterでフォローを外されたら嫌われたと思ってしまって。遊びに誘っても断られ続けてると「俺嫌われてんのかな」って思ったり。思うまでは仕方ないかもしれないけど、そのあと更に「誘いを受けてくれないということは、俺のこと嫌いなんでしょ」って相手に言っちゃうくらいでした。
高校時代の同期で、お互い就職したあともいろいろ連絡を取り合って励まし合ってた人がいるんですけど、その人が「あいつと関わるの、面倒くさい」って人づてで言ってたって聞くぐらい。
さかし:それほど「面倒くさいネガティブ人間」だった直也さんが、方向転換したのはきっかけがあったんですか?
北村:ずっと仲良くしてた人に、「なんか面倒くさいやつだ」って思われたのがものすごくしゃくだから、相手の考え方を180度変えてやりたいなと思って。それをきっかけに、「まずどれだけ自分が嫌われてると思ってしまったとしても、その思いを発信するのはやめよう」と。自分が変化しなきゃいけないときだ!ってなったのが2019年でした。
あきら:相手を変えるにはまず自分から。
北村:単純に「何か変わった」って言わせてやりたいと思ったんです。
その人とは今もオンラインのクラス会とかで話すことがあるんですけど、当時はTwitterで1回ブロックされて、その後ブロック解除されたんです。それからはクラス会で何かの話題を出すと「それ、ツイートしてたよね?」って知ってるんですよ。
ふたりきりで話したりはしていないですけど、自分の中ではその人に対して隠れライバル意識を持っていて、今があります。
あきら:なんだかゲームとかアニメに出てきそうな関係性ですね。
さかし:でもそういったきっかけを拾うこと自体が結局ポジティブですよね。根本のところに負けず嫌いだったり、ポジティブな要素を持っていたんでしょうね。
北村:それはあるかもしれないです。それが、大手企業に就職して失敗した経験で一度引っ込んでしまっていたのかも。ある意味ターニングポイントだったのかもしれません。
最近では変なダジャレばっかり書いてます。そういうときのほうが反応いいけど(笑)
あきら:親近感を感じてもらえているのかもしれませんね(笑)
北村:僕も逆の立場だったら結構日常的なツイートのほうが距離が近い気がしていいねおしちゃうかも。
あと、意外とそのやらかしも含めてのエピソード系のツイートのほうがわりといいね押しませんか?自分の場合は、やらかしエピソードはいかにおもしろく伝えるかを意識しています。
ePARAの大会って負けた人にも一言を求めたりするんですよ。自分は試合には負けたとしても印象では負けないように、時にはキャラクターのものまねをして印象に残るようにしています。
さかし:ものまね(笑)ただでは終わらないんですね。爪跡を残す精神。
あきら:似た話なんですが、とても小さい国で、温暖化かなにかの影響で海面が上がって今にも消滅しかかってる国のパワーリフティングの選手がいて、その選手がオリンピックで大きいダンベルで頑張ったんだけど上がらなくて失格になっちゃうんですよ。
それは、悔しい、けどみんなを楽しませよう、せめて危機的状況にある自分たちの国の存在を知ってほしいんだっていうパフォーマンスみたいなところもあったらしいんです。
あきら:その失格になった1、2秒間はめちゃくちゃ「あぁ!」って無念な表情をするんだけど、そのすぐ後にめちゃくちゃ笑顔で、観衆に向かって明るくダンスをしながら去っていくというパフォーマンスをしているのを見たことがあるんです。逆境の中でも、むしろ逆境の中だからこそ、負けてもおもしろいコメントをする、明るく振る舞う姿を見ると、それだけでこちらは共感できるじゃないですか。凄まじい精神力だなと感じます。
北村:おもしろいことを言ってやろうと思って狙うと滑ることがあるじゃないですか。前はそういう経験から自分を無難なところに閉じ込めてしまう時期もあったように思いますが、ePARAで活動をしていると、周りのみんなが愛のあるスルーをしてくれるので心おきなく自分を出せています。
さかし:失敗が許される、安心していられる環境って大事ですね。
「ひとつのことを極められない」弱みを強みへ
さかし:肩書を周りから迷われるほどいろんなことをされていて、逆に大変だったりはしませんか?
北村:むしろひとつのことに絞れない性格なんですよね。「何でもやるんじゃなくてひとつにしたら?」って結構周りから言われ続けてきました。
何をやっても「人より少しできる程度」から伸び悩んでしまったり、ひとつの道を極められない自分に対して周りは冷ややかで、わたし自身もコンプレックスに感じるようになりました。
ただ、声優とeスポーツには「音」という共通点があり、ITのスキルを活用するというところで、以前大手企業でエンジニアとして働いていたことと声優が繋っていたり。
自分は「ひとつのことを極められなくても掛け算で戦うこと」を極めていけばいいと思ったんです。
僕は視覚障がい者専用の電子書籍自動音声読み上げサービス「アクセシブルライブラリー」というプロジェクトに視覚障がい当事者として協力していて、実際にサービスのデモンストレーションをしたり、評価実験が必要なときは協力者を探すお手伝いをしているんです。
アクセシブルライブラリーは
「誰一人取り残されない、人に優しいデジタル化」に貢献している、
又は今後貢献し得る個人や企業・団体の
取り組みを表彰するgood digital awardで
グランプリを受賞したそうです!
北村:このプロジェクトに参加することで、ひとつのことを極めることに拘らない自分の生き方は、これからくるであろう「組織に縛られない働き方」のモデルケースになるのではないかと思いました。声、IT、ライティングなど、複数の「人よりできるけどエキスパートまでは行っていないスキル」を組み合わせて組織に縛られないという独自性がある気がしています。
このプロジェクトも含め、いろんなことに手を出して「ひとつのことを極められない」ことをネガティブに捉えていたのが、その点と点を繋げてきて結果的に「いろいろやってきてよかった」というポジティブな要素に変わるきっかけになったと思います。
あきら:ご自身の中の点と点を繋ぐだけでなく、いろんな視点からいろんな出会いを生んで、いろんな接点ができて、人を結びつけ、絶対結びつかなかったはずの人たちが結びついていくという、直也さんがパワースポットになってるってことですよね。
北村:ある意味自分のおいしい点だと思ってるところが実は珍しいことで、これをひとつひとつやっていくことによって、当事者からも業界関係者からもおもしろがってもらえる。
目が見えないけど声優やってるって、しかもゲームもやってるって、どういうことよ?みたいに。
それに、同じ視覚障がいの当事者の方からも「実は自分も声の仕事に興味があって」「昔興味があったんだけどできるの?」っておもしろがってもらえるのは強みだと思います。
ePARAが主催するeスポーツのイベントではプレーヤーとして出場しながら自分でPR動画のナレーションもしているんですよ。
さかし:直也さんが点を繋げるためにちゃんと発信していることも大きいでしょうね。外に伝わらなければ結局繋げようがない。
「これはできる」「これは助けてほしい」って事実を発信しないと、私たちと見えている世界が違うからお互いわかりませんしね。
発信力があって、発信してるものにも何か魅力を感じる。だからみんなが繋げてみたくなっちゃうっていうか…見せ方が上手なんですね。
北村:エンジニアとして働いていた企業を退職した後のフリーの期間が大きいんじゃないかなと思っています。
ePARAに入ったのが去年だから、退職からそれまでの3年半ぐらいはフリーで仕事がなかったですからね。稼ぎたいから自分が使えるスキルはどんどん使っていかなきゃいけないって思考だったんです。
なので、繋がりがある方で、例えば何か開発されてる方とか、エンジニアとして作ってる人もいれば、クリエイターさんとかいろんな方との関わりを持つ中で、こういう方たちにとってPR動画とかナレーションって絶対必要だから、そこに関われないかと動いてみたり。
自分でYouTubeにサンプルの動画を公開するんだったら、自分で原稿から作ってみようと思ってナレーションのスクリプトを変えてみたりとか、自分が持ってるものは全部使ってとにかく仕事をもらえるように頑張ろうと。
そうしていたら、スポーツイベントで自分がPR動画にナレーションをするときに自分でスクリプトを書く機会もいただけるようになりました。
フリーのときにもがき苦しんだのが生きてると思います。
さかし:きっとそこは目が見える見えない、障がい関係なく、覚悟を決めたから頑張れたんですね。
北村: そのときに、自分は自分が提案したことをやらせてもらえて、ある程度失敗も許されるというような環境が自分に合っているんだろうなと思いました。
大手企業で働いていたときは、上から厳しい評価を受けて、それに抗って頑張るというような環境でした。サラリーマンはもう無理だと思ったし、そういうのは多分自分には向いてないんです。
その頃に培ったエクセルでの管理の技術は、しっかり今ePARAの中でやっているSNSマーケティングのデータの数値管理とかで生かしてますけど(笑)こういうの前職でやったなぁって。
さかし:無駄ではなかったですね(笑)
北村:結局今の自分があるのは「普通だったら諦めそうなところを諦めなかった」っていうところじゃないかと思います。
目標を追いかけててもいろんな理由で「ちょっと難しいかな」「そろそろ諦めなきゃいけないかな」って思う瞬間ってあると思うんですけど、そういうときに「もうちょっと頑張ってみよう」って。そういうときに僕の話を思い出していただけると非常に嬉しいです。
そのためにも今後もいろんなことにチャレンジして、発信も頑張っていこうと思います。
さかし:今後生まれる繋がりも楽しみです。自分を枠にはめず、必要だとおもうこと、自分はこれが楽しいと感じることをどんどんやっていくだけで世界が生まれて繋がるんだなと思いました。
ありがとうございました!
目が見えない障がいを持ちながらも、人に「見せる」ことを積極的にしている直也さん。見せられ、知ったことによって共感した人たちが集まってきて、大きくなったり新しい形ができたり…これからも直也さんの周りにはおもしろいことがたくさん起こりそうな予感がしました!(by さかし)
【ライター】
さかし(坂下純美)
東京在住のナレーターで一児の母。都内スタジオでの収録を主に活動。1年半前に宅録を開始。人間観察が好き。
〇HP…https://www.sakashitamasami.com/
〇Twitter…@sak1013
あこ(甘利亜矢子)
静岡在住のナレーター。司会業を中心に伊豆半島全域を走り回る日々。只今育児の為、司会業は育休中。宅録のお仕事を本格的に始めました!
〇note…https://note.com/amariayako
〇Twitter…@amariayako
片岡あきら(HITOCOE編集長)
国際ナレーター芸人。声の仕事でお寿司を食べまくっている人。プレイヤーとしてだけでなく、スクールや大学での講師、個人レッスンなども。
〇HP…https://kataokaakira.com/
〇Twitter…@akiranarrator