ひつじでラーメンを作るということ
正確には「羊肉と羊骨メインのラーメンを作り続け売り続けるということ」。その実体験と現時点での結論。
①「高い」羊肉と「安い」ラーメン
「羊肉=臭い」というイメージが根強い日本社会。
またそのイメージに対抗するように「臭くはない」「むしろ臭いほうが好き」という人も多いのですが、とかく匂いが先行して語られて意外と旨味について批評するのは後回しだったりしますね。
そして「羊肉=高い」というまぎれもない現実についてはさらに語られることなく、肉屋やスーパーでの取扱いもまだまだ少ないこともあり、どれくらいの値段なのか知らない方のほうが多いのではないでしょうか。
かたや「ラーメン」だと「安い」というイメージが定着してますね。
食に保守的な方であるほどその傾向は強くなりますが、ラヲタと呼ばれる偏愛的なマニアであっても「安くなければならない」という方は一定数います。「限定」と銘打たれたラーメンなら余裕で1000円以上出せてもレギュラーメニューなら高いと感じる方がラヲタのボリュームゾーンかと思われます。
②「高い」は「強気」?
安価な値付けは「良心的」、高めなら「強気」だともいいますが実際には良心や気の強さで決まることはなく、店舗が持ち家だったり実家が畜産農家だったりなどよほどのアドバンテージがない限り、飲食店での値段はほぼ食材原価で決まります。
必然的にラーメンでは一般的な鶏豚より割高な羊を使えば使うほど原価は上がり値段も上がります。
そして「ラーメン=安い」というイメージの壁が立ちふさがるわけです。
なおかつ「羊肉=高い」という認識もなければ「強気」と受け取られるのは無理もないですよね。
当店も特に最初の1ヶ月は(直接言われたことは一度もないですが)「強気の値段設定」「コスパ悪すぎ」と書かれたレビューを何度も目にしました。
羊を使うかどうか以前にも、ラーメンはファストフードやインスタント麺のイメージがありながらも実際には概ね仕込みは長時間で手間もかかり、味の多様化と競争率が激し過ぎて量産化、大規模化による低価格化が極めて難しい料理であります。
「手間」というとやる気次第で無限にできるように捉えられがちですが、要は人件費と水道光熱費なので手間が増えれば増えるほど値段も上がるはずです。
そんな手間(人件費+光熱費)と高い材料費で1000円以下で出すのは、いっときの限定ラーメンならともかく持続可能なビジネスとして成立しません。
ではどうやってその「高い」イメージの壁を越えられるのか。
③ラーメンなのか、羊料理なのか
ラーメン=1000円以下、のイメージですが、羊をふんだんに使っているならラーメンであると同時に「羊料理」でもあります。
羊料理は概ね、高めです。
羊肉の値段は勿論ですが、羊料理というとまずジンギスカン、次いでバルやレストランでラムチョップ、中東から中央アジア、中国のウイグルや東北地方の料理店などが思い浮かぶように、テーブルで複数人で、お酒も伴って食べるスタイルがほとんど。滞在時間は長く回転率は低いので低価格にはなりません。
一人でサッと入ってサッと食べて帰られる方がほとんどの高回転率のラーメン屋とは真逆ですね。
当店では開業当初は「ラーメン」をお求めのお客様がほとんどでしたが、徐々に「ひつじ」が食べたいから来られるお客様が増えるにつれ、値段への不満感もなくなっていきました。
実際1000円台前半でお腹いっぱいになれる羊料理ってなかなかないですし、初めてのお客様が一人でお酒も頼まずに気軽に入れる羊料理店も極めて少ないでしょう。
④ひつじでラーメンを作るということ
これだけ原価と手間がかかっているにもかかわらず、原価も手間がかかってないイメージを払拭できるか。
それをクリアできれば、「ひつじでラーメンを作るということ」は持続可能なビジネスになり得ます。
当店はただただ時間に解決を委ねるしかなかったです。
開店以来少しずつ味の向上を重ねお客様との信頼関係を増やしていくことで、少しずつ値段以上の価値を感じてもらえ、値下げすることなく少しずつ値段への批判を減らしていきました(原価は上がりましたが…)。
要は羊料理の値段相場を知っているひつじ好きをどれだけ掴めるか、が鍵だったんですね。
(もっと言えば「わかる人はわかる」のではなく食べる前の情報段階から「誰がどう見ても手間も原価もかかっているのがわかる」レベルまで商品力を上げる、のが理想です)
⑤ラーメンと羊料理の架け橋に
かと言って別にラーメン好きとひつじ好きは対立するものでもないですし、ラーメン好きが全員値段にシビアなわけでもなく、ひつじもラーメンも好きな方も多いです。
さらに今後、ひつじ好きな方は増え続けるはずです。
当店はラーメン屋でもありながら羊料理店としてもあり続け、ラーメン好きとひつじ好きを結ぶ架け橋になれればと思います。
〜ひつじそば 人と羊について〜
2019年11月6日から2020年4月18日まで神保町で営業していたひつじのラーメン専門店です。
ただいまコロナ禍後の移転を目指し休業中です。
今後の予定などの情報はTwitterが一番早くて確実です。
( https://twitter.com/hito_to_you)
店主の勉強代になります。何かしらのカタチで還元できると思いますので魔が差したらサポートおねがいします。