ジャッキー・チェンと勝負する・追撃戦(28)
前回の本欄では、取りあげた「プロジェクトX」がネット配信のみの公開で映画館にかからなかったのを嘆いたのだが、その甲斐あって(?)次なる新作「ライド・オン」はめでたく5月31日から劇場公開の運びとなった。よかったよかった。
こちらは劇場公開後、あるいはソフト発売後に本欄でも取りあげることになるが、それまで間がもたないので、今回は(たぶん)これが最後の旧作となる「ファイアー・レスキュー」(救火英雄/AS THE LIGHT GOES OUT)を紹介しておこう。
2013年の作品で、香港はじめ中国語圏各地では2014年1月の公開。春節映画だったのか。日本でもその年の10月に公開されている。タイトルでもわかるように、消防士を主人公にした火災映画だ。
ジャッキーは「ポリス・ストーリー」をあげるまでもなく、警察官役は数多いが、消防士役はいままであったかな? ジャッキーの消防士姿、似合いそうな気がするね。
そんなジャッキーの出番は開始直後。
香港に隕石群が飛来! 次々に落下する隕石で、街は阿鼻叫喚の大パニック! え?そんな映画なんだっけと思う間もなく、崩壊寸前の香港を救うべく颯爽と登場するのがジャッキー扮するスーパー消防士。おお、なぜか音楽は「ポリス・ストーリーのテーマ」だ。そしてカメラに向かったジャッキーが「消防はキミを求めている!」
そう、これは消防士募集のためのテレビCMだったのだ。
というわけで、このCMを詰め所で見て、「カッコよすぎだろ」などとワイワイいっている消防士たちが主人公のドラマが開始されるのである。
ジャッキーの出演シーンは、たったこれだけ。時間にして2分くらいだろうか。完全にゲスト出演。
ただこのシーン、ジャッキーが出ているという以上に、金と手間がかかったもののようで、このままでSFパニック大作の予告編にもなりそうだ。「ホンコン・アルマゲドン」とかいって製作したら、けっこう面白くなるかもしれんな(笑)
ということで、ジャッキーの出番は終了したので、本欄としては「以上」というところで終了なのだが、じつはこの「ファイアー・レスキュー」、このCMに負けない面白い映画だった。
火災に挑む消防士の映画はけっこうあるだろうが、大きく2つのジャンルに分けてしまっていいと思う。
ひとつは巨大火災そのものに焦点をあてたデザスタームービーで、代表作としては「タワーリング・インフェルノ」(1975年)を挙げればいいだろう。火災の発生から鎮火までを迫力満点に描くもの。
もうひとつは消防士そのものに焦点をあてたドラマで、こちらは「バックドラフト」(1991年)あたりが代表作といっていいだろう。次々に起きる火災を背景に、消防士たちの私生活が中心に描かれるもの。
まあ、当然ながらどちらのジャンルでも火災シーンが見せ場となるので、厳密には分類できないが、なんとなく映画そのものの雰囲気が違うものになるのはわかるよね。
さてこの「ファイアー・レスキュー」はどちらかというと、前半が「バックドラフト」型、後半は「タワーリング・インフェルノ」型といっていいだろう。
3人の消防士の過去からのしがらみを中心に地味に描く前半とは一転して、天然ガス発電所の巨大火災と、その現場からの救出劇に終始する後半は、ド迫力だ。
もちろん2013年の作品なのでCGもけっこう使われているが、いかにも香港映画らしい爆発や炎上の特殊効果が多用されていて、やたらとドカンドカンとぶっ放される。その迫力はちょっとしたものだ。
かつての香港映画は、俳優やスタントマンの安全には配慮せずにもっぱら迫力を追及していた面があった。そのための悲惨な事故も少なくはなかったが、それゆえか、当時の香港映画の画面には他では得難い迫力があったものだ。
もちろん今ではそこまでの危険は冒していないだろうが、「ファイアー・レスキュー」にはその息吹が少しでも感じられたのではないだろうか。
ということで、ジャッキーの出番は少なくても、「ファイアー・レスキュー」には充分楽しませてもらった。
じつは、ジャッキーの出番が少ないのがわかっていたし、なんか「バックドラフト」型の人間ドラマだと思っていたんで、見るかどうかなかなか踏ん切りがつかなかったのだが、見てよかったよ。
以下は余談。
ジャッキーと火災映画というと、かつて「タワーリング・インフェルノ」をネタにした妄想を原稿にしたことがある。1993年の同人誌に掲載した記事だから、もう30年以上前のものだ。
ジャッキー・チェンが「タワーリング・インフェルノ」のリメイクを企て、紆余曲折のすえに撮影にこぎつけるが、予算不足と撮影中の事故によって中断、ついに断念するまでを描いた、ホラ話(そんな史実はございません)
ジャッキーが「タワーリング・インフェルノ」でスティーブ・マックィーンが演じた消防士を演じ、ポール・ニューマンの設計士の役にチョウ・ユンファを起用するという骨子で、我ながらなかなかの出来栄えのホラ話だったと思う。実際にこれを実話だと思った読者がいたとかいないとか。
その妄想譚「九三沖天大火災」(タワーリング・インフェルノ1993)、なんと現在でも下記で読むことができるので、よろしく。
さて、「ライド・オン」(龍馬精神)の日本公開は決まったが、まだ日本未公開の新作が残っている。少なくともあと2本、海外では公開済みの作品があるのだ。2021年4月に香港で公開された「All U Need Is Love」(總是有愛在隔離)、同じく12月に公開されている「Good Night Beijing」(北京晚9朝5)の2作。早く日本でも見られることを期待しよう。