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令和7年・初場所雑記

まずは、やはり照ノ富士に触れねばなるまい。場所前から、なんとなく調整不足が伝えられて一抹の不安を抱えたまま初日を迎えたわけだが、その懸念が当たってしまった。

初日に若隆景に敗れ、その後は連勝したものの、4日目に翔猿に敗戦すると5日目から休場。そのまま引退に踏み切ってしまった。今後は、横綱特権を行使して年寄り・照ノ富士となり、伊勢ヶ濱部屋の部屋付き親方として後進の指導に当たることになる。

ご存知のとおり、大関→序二段→横綱というおよそ前例のない驚異のⅤ字回復をやってのけただけでも大相撲史に残る横綱だが、優勝回数10回は優勝回数歴代11位タイ。横綱在位21場所のうち、じつに20場所が一人横綱だったのも大変な偉業だ。じつは、残る1場所も白鵬が全休だった(翌場所前に引退した)ので、実質的には在位すべてが孤高の横綱だったことになる。記録ウンヌン以上の次元で、歴史に残る横綱だったといえよう。

長いあいだご苦労さまでした。今後の指導に期待します。

というわけで、先場所優勝を争った2人の大関、琴櫻豊昇龍には横綱昇進の大チャンスとなったわけで、場所前から高まっていた期待は、照ノ富士引退の報とともにグーンと大きくなった。

結果的には、その期待の重圧に耐えきれなかった琴櫻は大きく崩れて負け越し。一転して来場所は初のカド番となってしまった。ただ相撲ぶりを見ている限りでは、そうしたメンタルの問題もだが、どこか故障か病気があったのではないか。そう思うくらい、相撲内容がガタガタだった。春場所までになんとか立て直せるといいのだが。

中盤戦までには、もう一方の豊昇龍も3敗を喫し、場所の焦点は両大関の綱盗りから、混戦となった優勝争いにスライドした。今場所再入幕の金峰山が突っ走り、追走するのは伏兵・千代翔馬ら平幕力士ばかりという、つい数年前までの戦国時代が再来したかのような混戦。これはこれで優勝争いは白熱し、土俵は沸いた。

結果的にはこれで綱盗りの重圧が消え、豊昇龍が息を吹き返した。終盤に向けて尻上がりに調子を上げ、千秋楽に追いつくと、優勝決定巴戦を制して、逆転優勝を飾ったのだ。お見事。

先場所優勝していない、先々場所は8勝止まり、喫した3敗がいずれも平幕相手、優勝スコアが12勝3敗とロースコア、そして直接対決で横綱に勝っていない(これは本人の責任ではないが)と、時期尚早の声もあったようだが、そうだろうか。

場所終盤、ことに13日目から優勝決定戦までの5連勝した相手は、大の里、尊富士、琴櫻、金峰山、王鵬。いずれも実力者の難敵だが、そのすべてを圧倒してのワンサイド勝利だった。その相撲ぶりには、つけいるスキがいっさいなく、まさに鬼気迫る戦いぶりだった。脱帽だ。

理事会や横綱審議委員会の結論がどうなるかは別にして、私は豊昇龍は横綱昇進にふさわしい相撲を見せたと思う。(横審の結論は横綱推挙と出た

さて、これでいよいよ新時代の幕が開いたわけだ。ここ数年待望し続けた若き横綱の誕生で、土俵の勢力図も大きく変わりそうだ。

奇しくも今場所終盤に豊昇龍の前に立ちはだからんとした5人の強敵が、これから豊昇龍を追って土俵の中心に君臨するメンバーになるだろう。

ここで大きな挫折を味わった琴櫻と、10勝はしたものの期待値を下回った大の里の両大関は、当然ながら追撃の一番手となって巻き返さねばならない。次いで、負傷が癒えてよみがえった尊富士、決定戦で一敗地にまみれた王鵬金峰山。いずれも豊昇龍へのリベンジと独走ストップを期してくるはずだ。

ほかに、関脇で11勝をあげて大関とりへの起点を築いた大栄翔、10勝で敢闘賞を獲得して復活の狼煙を上げた霧島、こちらも負傷から復活してきた伯桜鵬

さらに、今場所は振るわなかったが、若元春、若隆景、熱海富士、平戸海などなど。そして十両優勝を競りあった、獅司、安青錦、若碇といったところも追撃してくる。

気がつけば、土俵の覇権をめぐる争いは、戦国乱世からさらに一段階上のレベルにきたようである。令和7年、本当の意味での新時代がやってきたようだ。

いっぽうで、照ノ富士だけでなく、場所前に阿武咲が引退。昨年の貴景勝もだが、実力者、人気者が土俵を去ってゆく。また長く上位で活躍した御嶽海が大負け、北勝富士が全休で、幕内維持が危ぶまれる状況だ。

出世争いも激しかったが、そのあおりで新陳代謝も激しくなってきたようだ。そういう意味でも、今年の大相撲は目が離せないことになりそうだ。

最後になったが、今場所の土俵を盛り上げたのは、出世レースや優勝争いだけでなく、相撲内容の良さだったことも記憶しておきたい。一番相撲のおもしろさこそが相撲本来の魅力なのだ。

ここ数場所にもいえることだが、幕内のみならず、十両の土俵も盛り上がった。さらに幕下以下の相撲も熱戦が多かった。

クセモノの宇良が「伝え反り」なんて技を披露したように多彩な相撲が見られたし、一方的ではない攻防のある相撲も多かった。それを象徴するのが物言いのつく相撲の多さで、2番続けて物言いがついた日もあった。もちろん休場者もいたし、負傷で本領が発揮できなかった者もいたが、総じて力士たちのコンディションは良かったようだ。

思えばコロナ禍以来、巡業の縮小、出稽古や連合稽古の自粛、感染防止優先で稽古量が減っていたのではないか。それが世の中がパンデミックに慣れ、それにつれて次第に稽古量も復活してきた。それが力士たちのコンディションに好影響を与えているのは間違いない。いうまでもないことだが、稽古こそは力士の「糧」なのだ。

どうやら角界もコロナ禍を乗り越えたようだ。もちろんまだまだ油断は大敵だが、ふとそんなことを実感した初場所だった。

では新横綱が登場する春場所を、楽しみに待ちましょう。

大相撲/丸いジャングル 目次


【2025/1/29】 本日無事に第73代横綱・豊昇龍が誕生しました。まずは、おめでとう。それにしても、今日伝達、明日は綱打ち、そして明後日にはもう明治神宮奉納土俵入りという過密日程。さらに翌日の土曜日には徳勝龍の引退相撲があって、国技館で土俵入りを披露するはず。この短期間で上手く土俵入りをできるようになるのか、早くも試練(笑) 立浪部屋は出羽の海一門なので、土俵入りは雲竜型、指導するのは元・武蔵丸の武蔵川親方だそうで、責任重大ですよ、センパイ(笑)

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