#83. アボカド弁護士
スペイン語では、「弁護士」のことを abogado(アボガド)という。
なんだかアボカド(avocado)みたいだなあと思っていたら、語源の上でもこの二単語は、奇妙なつながりを見せていた。
(※細かい部分は諸説あるようだが、今回は、膨大なソースをもとに作成されているウェブサイト Online Etymology Dictionary の説明を参照した)
◇
まず、果物としてのアボカド(avocado)はもともと、アステカ文明で有名なアステカ族のナワトル語 ahuakatl に由来している。
これが後にスペイン語に入ると、はじめは aguacate とつづられていたものの、当時のスペイン語に「弁護士」を表す avocado という単語がすでに存在していたために、これとの混同で「アボカド」を表す単語のつづりも avocado へと変化してしまった。
そしてその(「アボカド」を表す方の)avocado が、スペイン語からの借用語として英語に入ったのが、あのアボカドだ。
ahuakatl
(ナワトル語)
↓
aguacate → avocado
(スペイン語)
↓
avocado
(英語)
なお、ラテン語の advocatus にその起源をもつ「弁護士」の方のスペイン語 avocado だが、英語にはフランス語を経由して入り、現代英語の advocate がその兄弟(?)にあたる。
advocatus
(ラテン語)
↙︎ ↘︎
avocado avocat
(スペイン語) (フランス語)
↓ ↓
abogado advocate
(〃) (英語)
いま現在、スペイン語での「アボカド」は aguacate というかつてのつづりに戻っており、avocado とつづられていた「弁護士」も、上述のように abogado というスペルに変わってはいるが、事実としてこの二つのものが、同じ発音・同じつづりで存在していた時期があったというのは面白い。
◇
ちなみに、幸い英語とスペイン語では、最終的に二つを表す単語がはっきり区別されるに至ったが、フランス語では、いまでも avocat というひとつの単語が、「アボカド」と「弁護士」の両方の意味を持っている。
「職業は、実はアボカドをやっております」
「あらすごい、アボカドさんだったんですか」
「そうですね、大手企業の顧問アボカドも務めております。なにかありましたら、いつでも伊東アボカド事務所までお越しください(おもむろに名刺を渡す)」
アボカドさ ...... いや弁護士さんとのちょっとした会話が、こんな風にも聞こえてしまうのか。アボカドと同じ響きで呼ばれて、弁護士の方は自分の尊厳を保っていられるのかな。とても気になる。
いつかフランス人の弁護士に会う日が、いまから待ち切れなくなってきた。
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