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#89. 今日の夜ごはんに「ブリナー」はいかが?


あまり信じてもらえないのだが、ぼくは朝ごはんは絶対食べないし、なんならお昼も食べないときがある。

夜こそしっかり食べるけれども、それ以外は別に必要性を感じない。

「よく生きていけますね」と言われたときは、「日中は光合成をしているので」と真顔で答えて相手の顔を引きつらせるのがルーティンである。

最近は日本語としても浸透しているが、英語で「朝とお昼の間に食べる食事」brunch(ブランチ)と言う。

breakfast と lunch が混ざった造語である。

それなら、お昼と夜の間に食べる lunch 兼 dinner のような食事のことは、どのように呼べばいいのだろうか。

数年前に疑問に思い、アメリカ人の友人に聞いてみたところ、「ぼくらは linner(リナー)って言うかな」と教えてもらった。

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ただ、つい先日アメリカ人の同僚に「英語には linner というのがあるでしょう?」と確認すると、彼女は使わないとのことだった。

ぼくの友人はカリフォルニアで、彼女はアラスカ出身なので、地域差があるということかもしれない。

linner は通じなかったものの、同僚の彼女にはまた新しい言葉を教えてもらった。

「英語にはもうひとつ brinner(ブリナー)ってのもあるけどね」

ほう、さてこの brinner とは一体どういう意味だろう。

発音とそのつづりからして、breakfast と dinner を混ぜた言葉であるのは明らかだが、朝ごはんと夜ごはんの間に食べるのは、ただのランチではないのだろうか。

「 brinner は、食べる時間というよりも、むしろ食べる量で決まるのよ」

なるほど、それじゃ「 dinner の時間に breakfast 程度の軽食を取る」のが brinner ってことかな?

「その通り」

なるほど。となるとすでに日本にも、ブリナー派の人はけっこういそうな感じがする。

ブランチが定着してきたいま、次なるブリナーの上陸も、もはや時間の問題か。

そんなこんなを考えながら、レストラン街をうろついていたら、ふとこんな看板が目に入ってきた。

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(いや「ランチ」の概念どこ行った?)

「おトクな」という枕詞がついているのを見ると、ここでの「ランチ」は「リーズナブルな食事」という意味で使われているのだろうか。

「夜なのに、ランチ程度のお手頃価格」ということで夜ランチ(?)。

ランチという言葉が「それを食べる時間」ではなく「その値段」を代表するものとして独り歩きしたわけだ。

そうなると、英語ネイティヴが breakfast を「食べる時間」から切り離し「その量」の部分だけを取り上げて作った brinner と似たような成り立ちと言える。

この二語のうち、どちらが早く、日本全体に浸透するだろう。

黒船「ブリナー」と国産「夜ランチ」によるしのぎを削る争いを、ぼくはひとり、光合成をしながら見守っていく。


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