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#73. 舐めてかかろう


仕事していたら、近くに座るアメリカ人の同僚ふたりがいきなりアメを舐めはじめた。

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(シャーベットペロ:税込み 32 円)

となりの席と後ろの席から、ゲラゲラした笑い声とともにやたら甘い香りが漂ってくると思ったら、こんな駄菓子をペロペロしながらふたりが雑談に興じている。

このふたり、絶対大学時代も周りを気にせず図書館でベラベラしゃべっていたようなタイプだな。(偏見)

特別な場合をのぞいて基本は「胸式呼吸」で話している日本人に対し、英語ネイティヴは「腹式呼吸」で話している人が多い気がする。腹から声を出しているから、広い部屋でも、英語で話している声は良くも悪くもかなり響く。

ふたりの声にしばらく耳を閉ざしていると、これを買ってきたアメリカ人の男性 G(仮名)が、この名前にある「ペロ」という言葉がわからないらしく、ぼくにその意味を尋ねてきた。

「あ〜それはなにかを舐めるときの音ですよ」と言うと、"Oh! I see 😮" と相変わらずの大声で納得。

擬音語に慣れた日本人としては、「『ペロ』が舐める行為の擬音であることくらい、説明しなくてもわかるでしょ」などと思いがちだが、

そう思った人はぜひいま、アメでもアイスでもなんでもいいので舐めてみてほしい。「ペロ」なんていうヘンテコな音、絶対鳴らないはずである。

ところで、英語で「舐める」行為を表す動詞は lick だが、この単語、実は「舐める」の他に「〔問題を〕克服する」とか「〔相手を〕打ち負かす」という意味もある。

The Mets licked the Yankees last night.
メッツは昨夜ヤンキースを打ち負かした。

どのような発想で舐める行為がなにかを負かすことにつながったのか、語源を調べてみたのだが、

Online Etymology Dictionarylick (v.2) の項には、聖書のある英訳(the Coverdale bible)の中で lick が "defeat, annihilate"(打ち負かす)という比喩的な意味で使われていたからだろう、としか書かれていなかった。

舐めるだけで打ち負かすことのできるものなんてそうそうないと思うのだけれど、英語ネイティヴはこのあたり違和感ないのだろうか。

われわれ日本語ネイティヴの感覚では、もしなんらかの勝負において相手を「舐めて」かかった場合、むしろこちらが負けてしまうため、英語の lick が負かすことを意味するというのはなんとも不思議な感じがする。

日本語と英語で真逆のニュアンスを意味する動作、「ペロ」は意外と奥が深い。

アメを舐め終わり口が寂しくなったのか、アメリカ人ふたり組の女性 A(仮名)がぼくに質問を投げかけてくる。

「フミは、なんのスナックが好き?」

いや、ぼくは間食をするなと親から教わってきたし、アメとかが歯に付く感覚が嫌いなので、基本スナックは食べないんですよ。

「フミ〜!スナックがないなんて、あなたの人生は一体なんなの?😩」

…… え、そこまで言う?

もうひとりの G がすかさず加勢してくる。

「フミ、きみはオレたちと相容れないな。ちょっとデスクを離そうか😜」

…… くそ、2 対 1 だからっていい気になりやがって。

ちょっときみたち、あんまり舐めた態度とってると、いつか lick してやるんだからな?


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