日刊ほぼ暴力#318

細い路地に逃げ込んで、右耳を押さえながら走った。ぬめぬめとする血が緩慢に垂れて乾き、顎の輪郭がゴワついていた。指で触って確認したところによると、耳朶の下半分ほどが吹き飛んでいた。痛みは可笑しいほど皆無だった。これならピアス穴開けた時のほうが痛かっただろう。その穴ももう無くなっちまった。とにかくこれじゃ目立ちすぎる。俺は逃げ切れないんだろうか? 初めて恐怖が湧いた。抱えている鞄の重さにすがりつく。これだけ金があれば出来ないことなどないと、奪った時は思っていた。今さら後悔して何になる? 耳なら医者に治してもらえばいい。ついでに顔を変えたっていいんだ。金ならここにある。そうだ。俺は俺でない何かにずっとなりたかったじゃないか。スーパーマンになりたがるガキと同じように。馬鹿な望みでいい。馬鹿な望みのほうが金で叶えやすい。自分の息が切れているのにも気がつかず走りつづけたので、俺はついにスッ転んで止まった。鞄は離さなかったので、顎をしたたかに打った。医者に削ってもらう手間が省けた。

(438文字)(続かない)

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