日刊ほぼ暴力#338
空が見えないほどの、白く煙る豪雨の中でその少女は死んでいた。アスファルトの上で仰向けに横たわる彼女の顔は赤く濁った水溜まりに変わり果てていた。まるで叩きつける雨粒の激しさが彼女の顔を陥没させて殺したように見えた。もちろん実際はそうではなかった。彼女の顔を殴ったのは人間の拳と、人間の振るった無粋な鈍器に過ぎなかった。しかし、それは致命傷ではなかった。彼女を殺したのはやっぱり雨だった。死因は溺死だったと聞いた。彼女は雨に溺れたのだ。意識を失ったまま仰向けで放置され、あの雨を無抵抗で鼻と口に流し込まれていたとしたなら、そうなるのは当然の結果だろう。けれど、そうではなかったことを俺は知っている。彼女が意識を失ってなどいなかったことを、俺だけは知っている。
(すまないと思っているよ。とても)
電話口から聞こえた不明瞭な声は暴行を受けた後の物だった。そうでなければ彼女はあんな力のない喋り方を決してしない。
(できれば、ここに来て欲しいんだ。君に)
声の背後では滝のような雨音が響いていて、そのせいで彼女の本当の意思も、感情も、俺には上手く聞き取れなかったのだ。
(476文字)(続かない)