日刊ほぼ暴力#346
咳き込みながら身を起こし、周囲の惨状を見渡す。机の上にあったものが根こそぎ床にぶちまけられたオフィス。壁面の強化ガラスは粉々になり、冷気と奇妙な生ぬるさの混じった風が室内に吹き込んでいた。
「……ちょっと! 状況は? 今の音は何!」
スマートフォンのノイズが薄れ、耳元でがなる声が聞き取れるようになる。
「静かにしてくれ。頭が痛い」
返事をしながら立ち上がる。足元がふらつく。視界が揺れるのは頭を打ったせいか、それとも本当にまだビルが揺れているのか。こめかみに違和感があったので、触れるとべったり赤い色がついた。
「最悪だ。血が出てる」
「負傷? 交戦したのね?」
「交戦? アレと? 冗談じゃない」
唇を引き攣らせた直後、ぎちぎちぎち、と軋むような音が響き渡る。膨大な質量を持った何かが身を屈める気配。室内が急速に暗くなる。俺は恐る恐る顔を上げた。ガラス張りだったはずの壁面の向こうに、巨大な黄金色の眼球があった。爬虫類のように縦に裂けた瞳孔。俺のことを見ている。咄嗟に懐へ手が伸びたのは我ながら馬鹿げていた。こんなものの前では鉛玉も石ころも同じだ。しかし幸か不幸かそこに銃はなかった。
(481文字)(続かない)