日刊ほぼ暴力#355
湾曲する白銀の刃の先端を彼女は握りしめた。ほっそりとした手を包む白手袋が裂け、瑞々しい果実を絞ったように、鮮血が溢れだした。
「何をするの。ああ……」
眼前に立つ彼女の母は驚いて目を見開き、ついで彼女の足下の絨毯を見下ろす。その高価な品が汚されてしまうことが、この場で真っ先に憂うべきことだとでもいうように。事実、母がそう感じていることを彼女は分かっていた。そのような母でなかったら、こうして剣を向けることなどできはしなかった。血を吸わせた刃に、紅の紋が浮かび上がる。彼女らの祖が生み出した、呪いを絶つ呪い。一族の血を絶つには、一族の血をもってせよ。自死のための刃は、抱えた役目の重さにも関わらず、あまりにも軽く華奢だった。
「お母様。お覚悟を」
剣の切っ先を母の首筋に突きつけ、囁く。顔を上げた母の無邪気な瞳を、彼女は真っ直ぐに見つめ返す。その手につけられた傷は既にすっかり癒えており、赤く染まった手袋の裂け目だけが痛々しさの名残を留めている。
(419文字)(続かない)
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