日刊ほぼ暴力#351
硬い牙と牙の噛み合う音に続いて、勢いよく噴き出す血。瞬きのうちに首なしと化した男の死体を俺は見上げる。巨大な満月を背に鮮やかな赤色が迸り、熱い飛沫が俺の顔にかかる。死体越しにゆっくりと、〈彼〉がこちらを振り返る。ぼとり、とその口から生首が吐き捨てられた。黒鉄のような毛皮に被われた逞しい前肢が、ごろごろと転がっていこうとするその頭を踏みつける。知性を湛えた紫色の双眸が俺を一睨みし、俺は尻餅をついたままそこに釘付けになる。これが彼の本当の姿。その事自体は何の疑問もなく受け入れた。見慣れた姿の時から、彼は他の何者も持たない気高さと強さを持っていた。村のなかで俺だけは始めからずっと気付いていた。けれどその暴力と、それがもたらす本物の死を眼前にしたとき、急速にひとつの疑問が俺の心臓を締め付けはじめた。彼は俺をも殺すだろうか? きっと殺すに違いない。彼にとって俺は食らうべき餌のひとつに過ぎない。いいや、けれど、もし。彼が一歩こちらへと踏み出す。獣臭と血の臭いが鼻をかすめる。俺は唾を飲み、そして口を開いた。
(452文字)(続かない)