日刊ほぼ暴力#336
皮膚の傷を内側から引き裂いて、少女の手の甲から何かが膨れ上がった。おれは咄嗟に跳躍した。一瞬前までいた場所を、放射状に拡散した鋭利な鋼色が貫いた。液体金属の腕。それは生物のようにうねり枝分かれしながら音を切り裂く速度で伸長し、おれの命を狙った。常人ならば一呼吸の間もなく全身をバラバラにされていただろう。間違いない。この路地を埋め尽くす屍の海は、そのようにして彼女が作り出したのだ。だが、いったいなぜ? 思考する暇はない。おれを捉え損ねて眼下を通過した腕が、曲がりくねって向きを変え背後から殺到してくる。おれは腰の短剣を引き抜き、宙で身を捻った。白々と輝く刃を一閃すると、無数に分かれた鋼色の腕は怯んだように向きを変え、おれの身体から逸れていく。おれは着地し、そして膝をついた。はじめの一撃を避けきれていなかった。左の足首が深く抉れている。おれを避けた腕は絡まり合いながら地面に突き刺さり、視界を檻のように遮った。その向こうで、すべての源たる少女が、こちらに伸ばした右手はそのままに、己の左手首を食い破るさまが見えた。血液の代わりに、溢れだすのは鋼色。――両腕を、使うつもりだ。
(488文字)(続かない)