アオはアイより
「青い血が欲しいんでしょう、〈ヴァンパイア〉。お願い、私を殺して」
初めて会ったとき、彼女は泣きながらそう言った。
ガラクタだらけの荒野を、どこからか必死に這ってきたのだろう。
砕けた両膝から火花を散らしながら、彼女は私の住み処、戦争時代の古い古いトーチカの前に横たわっていた。
彼女が人造種〈アーティファクト〉であるのは明白だったけれど、私はなぜかいつものような渇きを覚える代わりに、その真っ白な肌の上を流れていく透明な涙に目を奪われてしまった。
彼女を家の中に入れると、その胸をカーボンナイフで切り開くかわりに、私は彼女の新しい脚になりそうなパーツを探して、壊れたものと付け替えてやった。
そうすると彼女はもう泣かなくなってしまったけれど、私は満足だった。
そうして彼女――インディゴは私の物になった。
あるいは私の魚、私の鸚鵡、私の兎、私のただひとりの人に。
全ての人造種は文明崩壊以前の生まれなので、旧人類の血を受け継いでいるだけの私たちなどより遥かに昔のことを知っている。
ゴミ山の向こうの小さな集落では、たびたび壊れかけの人造種を拾ってその血を回収していた私のことを、古い伝説になぞらえて〈ヴァンパイア〉と呼んでいた。
「どうしてそんなことをしていたの?」
「青い血で、布を染めていたの。それが世界でいちばん綺麗な色だから」
ある時訊かれたので私が答えると、インディゴは可笑しそうに笑った。
彼女は私のほんの数歩先を歩いていたのに、その笑顔はなぜだかとても遠く見えた。
灰色の空と地面とのあいだに、ちっぽけな旗のように、私が着せてやった青色の服が翻っていた。
自分のこめかみを指先でコツコツ叩いて、彼女は言った。
「もっと綺麗なたくさんの色を、私は知っているよ。……ねえ、一緒に探しに行ってみない?」
その話をした翌日、私たちは旅に出た。
インディゴの中に残っていた僅かなデータ――150年前の地図と、数枚の写真だけを頼りに。
(つづく)