日刊ほぼ暴力#342

ぱきょっ、という音が降ってきた。姉の頭蓋骨があっけなく砕けた音だった。しかし少年はそれを見上げなかったので、何が起きたのかを知ることはなかった。少年は棒立ちのまま正面をぼうっと見つめていた。目の前に立つ白くぬらぬらとしたひょろ長い獣の胴と、宙に浮いて揺れる姉の身体だけが視界に映っていた。姉の四肢がびくびくと暴れているので、少年は彼女がまだ生きているのだと思った。獣は咥えた彼女の頭部を噛み砕き、脳味噌に舌を突っ込んで啜っていた。血液と獣の涎が混ざりあったものが滴り落ちていく。少年はゆっくりと足元に目を落とす。粘ついた液体が溜まっていく地面には、少年が取り落とした松明が転がっている。絶対に離してはいけないときつく言われたのに。しかしその火は消えかけながらもまだ弱く燻っていた。まだ抗える。少年はそう思った。この火はおれの勇気だ。姉さんの命だ。まだ失ってはいない。さあ、拾い上げろ。奴の腹を炙ってやる。姉だけでも逃がしてみせる。少年は手を伸ばす。だが、屈むことができない。膝がどうしても動こうとしない。

(452文字)(続かない)

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