日刊ほぼ暴力#334
空間を埋め尽くすように撒き散らされる銃弾の雨の中へ、彼はただ真っ直ぐに突っ込んでいく。バヂヂヂヂヂ、と小さな火花が彼の体の周りで絶え間なく散り咲く。彼の装備は、共に突撃した同期の兵士たちのものと何ら変わらない。正面からの銃撃を跳ね返し続けるような装甲などありはしない。そんなものがあったなら、彼の仲間たちも穴だらけの肉塊になることはなかったのに。またひとり、はらわたを撒き散らして転がった仲間の死体を踏み越え、彼は走り続ける。その体にはかすり傷ひとつない。彼を守っているのは、彼ひとりが持つ力。銃弾は彼の体に触れる寸前、すべて不可視の何かに弾かれたように火花を散らして逸れていく。あまりに高速で動いているため、誰にもその何かを視認することができないのだ。彼以外の兵士はもはや殆どが倒れた。死屍累々の大地を背にして彼はたった一人戦場を突き進んでいく。その異常な一人の存在を、ようやく敵も認識する。だが、その時にはもう全てが遅い。
「射程圏内に入った。やるよ」
呟きは誰に対してのものか、あるいは己の決意を固めるための独白か。彼は僅かに瞑目し――そしてその背から伸びる鋼線のような触手の一本が、銃弾を薙ぎ払いながら急速に伸長し、数十メートル先の敵兵を両断した。
(526文字)(続かない)