死なずは道化に相応しい
イベルテの王が暴君と呼ばれたのは、その在位期間四〇七九年の内、僅か最後の十年のみである。
それでも後世の人間は彼を悪と呼ぶのだろう。
かつての暖かき時代、不滅なる王の腕の中に安らいでいた理想郷――その面影はどす黒い血のヴェールの彼方に霞み、永久に穢れた。
かのユールゲルドの日食の年、季節は冬。
王は宮廷前広場にて自らの公開処刑を執り行わせた。
〈楽園の対価を支払うときだ。民よ、我が無聊を慰めよ〉
首斬り斧の閃きと同時、広場に放たれた魔虫の群れが群衆に襲い掛かる様を眺めながら、転がった王の首は声高く哄笑したという。
かくて始まった暗黒の時代は、それから十年後に幕を閉じる。
今から語るのはその終わりの話だ。
英雄も、民の団結も、壮大な戦も出てこない。
もっと下らない、奇矯にして凡庸な――これは俺の物語だからだ。
「それで、お前は一体何者なんだ?」
抜き身の片手剣を土に突き立て、虎のような目つきの男が問う。
月夜、廃墟の町。
幾つもの影が俺を囲んでいた。
爪つきの篭手を嵌めた落ち着きない様子の女。身の丈ほどもある弓と矢を背負う少年。異教の呪術的装飾を身につけた初老の男。
皆、油断ない視線をこちらに向けている。
俺はゆっくりと目を閉じ、開く。
そうだ。
彼らが俺の最初の仲間だった。
「名は、リュクタス。他のことはおいおい思い出すよ」
俺が答えると、周囲の気配は困惑と警戒の色を強めた。
無理もないことだ。
俺はその時の自分の出で立ちを思い出す――小汚い長髪。死体から剥いできた服。片手に提げた兵隊の生首。
「記憶がないのか? なぜ俺たちに手を貸す?」
「勿論救いたいのさ。この国と、壊れちまった王様と……それから」
肉の裂ける音と鮮血が噴いた。
俺は無造作に突き刺した血みどろの五指を、俺自身の喉から引き抜いてみせる。
千切り取った喉仏が間の抜けた音を立てて土の上に転がる――その時には既に、血の跡だけを残して喉は塞がっている。
「俺自身をさ」
(続く)