日刊ほぼ暴力#327
踏み込みは同時。刃と刃が火花を散らし、すれ違う。細かな血飛沫。互いに致命傷には程遠い。振り返るのも同時だった。俺の頬には薄い傷。対する相手は刀を握る右手を、左手で覆うように押さえている。その下からぼとぼとと血が滴る。両者の中間地点……たった今すれ違った位置に、指が二本落ちている。
「三本斬ったつもりだったが」
俺は呟いた。相手は荒い息を吐きながらこちらを睨み付けていたが、視線を動かさぬまま、刀を左手一本で握り直した。そして傷ついた右手を己の口元に持っていくと、ほんの皮一枚で繋がっていた薬指を咥え、引きちぎって吐き捨てた。
「やはり、狙いは正確だったな」
俺は頷いた。相手はやや身を捻り、片手で掲げた刀を大上段に構えた。柄頭近くに添えた右手にも力が張り詰めるのが見てとれる。持てる力の全てと重力を借りて、斬り下ろす。そのつもりなのが分かった。ならば、次の交錯が決着となる。
「惜しいな」
思わず、溜め息が漏れた。
(402文字)(続かない)
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