日刊ほぼ暴力#332

呻きながら俺は膝を折り、踞った。沸き立つ観衆のどよめきが四方から俺の脳を揺さぶる。流れ出る血が顔を覆っていくのを感じる。鉄の臭い。何も見えない。両の眼球を、一文字に切り裂かれた。理解はしていても、絶望は追い付いてこない。ざく、とすぐ近くの砂に刃の突き立てられる音が、やけに鮮明に聞こえた。
「立て。闘え」
威圧的な声が背中を叩き、同時に俺の手枷は外された。萎えた重たい腕を懸命に伸ばして、俺は与えられた武器があると思しき方向を探った。指先が厚いギザギザした刃に触れる。皮膚が切れるのも構わずに刃を辿り、柄を見つけて握りしめた。武器を支えに、何とか立ち上がる。血を流しつづける頭がぐらぐらと揺れた。何もわからぬ暗闇の中では平衡を保つのが難しかった。必死に息を整え、視覚以外の感覚を研ぎ澄ます。離れていく刑吏の足音とは別に、ざく、と十数歩離れた位置で、俺と同じように武器を抜いて構える対手の気配を感じ取る。……その男は初めから盲目だった。これで条件が平等になった、などと愚かなことは一瞬たりとも思えはしなかった。俺はこれから殺されるのだ。それをはっきりと悟った。

(477文字)(続かない)

いいなと思ったら応援しよう!