日刊ほぼ暴力#321

雨夜の闇に白刃が閃き、また一人が血飛沫を上げて吊り橋から転がり落ちた。眼下の濁流の中に悲鳴は呑まれ消えていく。護衛の数はこれで残り三人になった。護られるべき少年は既に橋を渡りきっている。その傍に付く護衛が一人。残り二人は吊り橋の中程で、敵の行く手を阻んでいた。橋の幅は二人が並び立つので精一杯の狭さだ。両者ともに剣ではなく槍を構え相対する者と睨み合うが、彼らの足はじりじりと後ずさっている。恐れているのだ。その剣を手にした男を。
「ふ」
鋭い呼気が雨音に溶けるのを、その場の全ての者が聞いた。次の瞬間、二つの首が宙に舞っていた。槍の穂先は男に掠りもしなかった。
「あ……」
少年が微かな声を上げて肩を震わせた。雨の匂いに一筋、どこかで嗅いだことのあるような焦げ臭い臭いが混じった。そう思った時、すでに剣士は少年の目の前にいた。
「!」
気がつく間もなく脇を抜けられた驚きと屈辱を先送りにして、最後の護衛がすぐさまその背に斬りかかった。ぎぃん、と初めて、刃と刃のかち合う音が響いた。つづけて二度、三度。ほう、と襲撃者が小さく息を吐いた。そして、少年はあの臭いが急激に強くなるのを感じた。髪が逆立ち、皮膚が痺れた。闇に青白いパルスが走る。それは敵の振り抜いた剣先の軌跡に沿って、護衛士の剣に衝突した。爆音が轟く。続いて、ジュウッと何かが蒸発する音。少年が閉じていた目を開くと、ゆっくりと護衛が膝をつくところだった。その上半身は抉りとられたように無くなっていた。

(622文字)(続かない)

いいなと思ったら応援しよう!