青の剣の継承者#7-3
(1)
(前回)
◇
ニズは〈遺物〉の引き金を引いた。
連鎖的に機構が作動する微かな金属音。【解読不能】の言語で刻まれた回路が繋がり、秘された意味へと流れ込むマナ。形を成し、生み出されるのは擬い物の魔法。
リューリの腕を掴み、広からぬ防御範囲の内に引き寄せて背に庇う。
瞬時に構築された不可視の盾が、眼前を黒く染める焦熱の煙を受け止め、そして。
〈?章再生〉
〈原典―不動の聖女〉
〈鏃の光。火炎縲よュッ縲らゥコ陬ゅ¥魑エ蜍輔?りァヲ繧後※邨ゅ↓閾ウ繧翫?逆しまに返る。其は譛医?莨シ蟋ソ縲通ずる所なき門。千に一つの瞬き。されど邯壹¥髯舌j縺ッ豌ク驕?縲手弱女に傷をば残さじ謌ッ繧後?蜉?隴キ縺ョ蜀?升〉
稲妻のような白光が迸り、宙に円形の亀裂が走った。
予期せぬ強烈な衝撃が腕を伝い、ニズは背後のリューリを巻き込んで後方に弾き飛ばされた。
〈鬼火狼〉の絶叫が耳を劈き、それ以外の全ての声を掻き消す。
何が起きたのかを考える間もない。
土に叩き付けられ、光に眩んだ目を必死に抉じ開けたニズは、少年の手を離れて宙を舞う〈青の剣〉を見た。
それは美しく危険な無尽蔵の力を振り撒いて回転していた。
リューリが目を開き、聞こえぬ声で何かを叫ぶ。
彼は今まさに己の身を滅ぼしかけていたその力へと、向こう見ずな怒りに満ちて手を伸ばした。
剣はぴたりと回転を止め、流星のように斜めに降ってその手に再び納まった。
数歩たたらを踏み、剣の重みに引かれるように前のめりの姿勢で構え直す。
確かな意思を取り戻した少年の目が見据える先で、〈鬼火狼〉は咆哮を絞り出しながら大きく後退りを続けた。
自らの吐き出した黒煙にまとい付かれ、数倍の大きさに膨れ上がったように見える首を振り立てて獣は苦痛にもがいていた。
顔の正面に走る、リューリが始めにつけた傷痕から、炭化した肉が崩れボロボロと続けざまに落ちた。
ニズはふらつきながら身を起こし、右手に握りしめたままの〈遺物〉本体を見下ろす。
「い……今、何が」
引き金を引き、盾は作動した――しかしそれは異常な光と衝撃を伴い、更には押し寄せた熱と煙を受け止めるのみならず、逆流させ、獣自身に浴びせたように見えた。
(〈青の剣〉に、近付きすぎた……?)
想定を越える膨大なマナが流れ込み、〈遺物〉が誤作動を起こした。咄嗟に考え付く事はその程度だ。
――あるいは、今起きた現象こそがこの〈遺物〉本来の機能だったのか。
回路に一部破損があるが、緊急時の盾として十分に機能する。そう説明され、数ヶ月前にとある〈猟犬〉の男から買い取った品だった。
同時に伝え聞いた名称は、〈戯れの加護の円鏡〉。
「それ、借りるッ!」
決然と叫ぶ声に、思考を止め振り返る。
リューリは既に走り始めていた。迷いなく一直線に、正面から標的へと突っ込んでいく。
もはや逡巡は必要なかった。何を信じ、託すべきか。それだけが明白だった。
「――! 残り一回です!」
ニズは〈遺物〉を振りかぶり、投げた。
(続く)