日刊ほぼ暴力#340
しとどに落ちる血が足元に池を作る。折れた剣を逆手に握り、俺は再び立ち上がる。気力を振り絞らなければすぐにでも膝が折れそうだった。視界は狭く、ふらついている。傷の一つは肺に達している。腱の切れた左腕は肩から無為にぶら下がって重心を狂わせる。
「なぜ。なぜ止まってくれない」
悲痛な声が相対する彼の口から漏れた。その声の揺らぎとは裏腹に、彼の構えた剣の切先はぴたりと俺の急所に狙いをつけていた。常のごとく、美しい構え。それでいい。俺は唇の端を吊り上げる。
「無論、俺がまだ生きているからだ」
折れた剣を握る右手を前に。腰を落とし半身に構える。
「次こそは首を落とすがいい。それとも、お前にはできないか?」
挑発する。無意味な行為だ。俺が何を言おうと、何をしようと彼の行動は変わらない。彼は俺を殺し、目的を達するだろう。数秒後の光景が目に見えるようだ。流れる神速の太刀筋。袈裟懸けに俺の胴を、返す刀で腕を、すれ違いざまに首を、振り返って背中を、斬る。斬る。斬る。
「躊躇するふりはやめろ。俺には分かっているぞ」
俺はお前に勝てないということを。
(461文字)(続かない)