日刊ほぼ暴力#331
冷たく湿った何かが少女の頬に触れ、ぞろりと撫で回す。濡れた草と苔のような臭いが鼻先に漂う。少女は息を殺し、目を閉じて眠ったふりをし続ける。心臓が苦しいほど肋骨の奥で暴れている。ごめんなさい、お母さん、ごめんなさい。心の中で少女は泣き叫ぶ。今日、本当は森へ行っていたの、おばさんの家じゃなく。あの家の兄さんはわたしのことを見つけると追いかけてきていやな遊びをするの。だからわたしはこっそり森へ行って、あの帰らずの大樹の根本へ、頼まれたお使いの籠を埋めたのよ。それから太陽が赤くなるまでずっとそこにいたわ。ああ、決まりのことはもちろん知っていたのに! とても疲れてびくびくしていたから、今になるまで思い出せなかったの。森から帰ってきた夜は、窓に必ず覆いをするようにって――
少女と両親が眠る部屋の中は、今や家の外よりもはるかに冷え込んでいた。窓から差し込む月の光が、凍りつく空気をあかあかと照らしていた。両親の寝息が聞こえているかどうか、少女は必死に耳を澄まそうとしたが、自分の心音に阻まれるだけだった。ふうう、と霧のような吐息が少女の顔にかかり、濡れた指が閉じた瞼に押し当てられた。
(491文字)(続かない)
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