日刊ほぼ暴力#354

私は口を開いた。赤い炎の光が喉の奥から零れ出て、眼下にひしめく蟻のような軍勢を照らし出す。私の攻撃を察して我先に逃げようと慌てふためく顔、恐怖に硬直して私の顔をただじっと見上げる顔、蛮勇に己を奮い立たせて勇ましく剣を掲げ叫ぶ顔。ひとりひとりの顔が私にははっきりと見えている。熱がそれらの景色をぐにゃりと歪ませる。
(さようなら。あわれな者どもよ)
私は喉を限界まで開き、そして息を吐いた。身体中の熱という熱が腹の底から押し出され、大気の割れる轟音が響く。一瞬にして視界が真紅に染まる。溢れた炎が怒涛のように眼下のすべてを飲み込んだ。苦しむ間もなく炭化し砕け散った無数の人間たちが、炎の海の中で黒く舞う。一方の私は、鱗の隅々までが凍えてひび割れるような寒さを感じている。
(早く。早く終わらせましょう)
続けざまに再び息を深く吸い込む。灼熱の空気に混じって、苦い煤の味を感じた。これが戦の味。小さき者たちの死の味か。
「そして、これから味わうのはお前自身の死だ」
突然に、首の後ろから声がした。小さいが、射るような鋭い声だった。私は重い背を揺るがそうとした。それよりも速く、熱が一直線に首筋の鱗を走った。二百年味わっていなかった感覚だったので、それが痛みだということが私にはわからなかった。

(538文字)(続かない)

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