日刊ほぼ暴力#350
父さんの首。ぼくが後ろからふざけて飛び付いてもびくともしない頑丈な首。短くて太い丸太のような首筋に小さな穴がふたつ空いて、そこからたらりたらりと鮮やかな血が垂れる。死人の流す冷たい血。
「そんな顔をしないでおくれ、坊や」
びろうどのように滑らかな声が頭の上から降ってくる。得体の知れないぞくぞくする感覚におののきながら、ぼくは顔をもたげる。月光の差す白い窓を背負って立っていたその女性は、信じがたいほど長身だった。長い体は黒く細いドレスに踝まで包まれていて、そののっぺりとした生き物らしからぬ輪郭が、より一層異常なスケールを際立たせていた。彼女の足下に転がっている父さんの青白いずんぐりとした体は、まるで子豚のようにしか見えなかった。女性は体をくの字に折って、低い低い位置にあるぼくのほうへ顔を近づけてきた。ひどく白いのに、全ての光を吸い込んでしまうようにも見える、陰そのものに似た顔だった。
「きみの飼い主は死んだ。この夜からきみは、わたしのものになるのよ」
(427文字)(続かない)