日刊ほぼ暴力#362
巨木のような腕が撓み、筋肉の軋む音がその場にいる兵士ら全員の耳に届く。巨人の全身に幾重にも絡み付いた鎖は身動ぎのたびに深々と肉の中に食い込み、もはや外からでは見えぬほどになっている。傷ついた全身から血飛沫を撒き散らしながら、巨人が再び身を捩って咆哮する。大地に固定された鎖の根本を守り、円形に怪物を取り巻く兵士らは顔を見合わせた。鎖の頑丈さは魔術師のお墨付きだが、このままではやつの四肢のほうが先に千切れてしまいはしないか。四肢のない巨人など王国軍にとっては造作もない獲物であろうが、少なくとも今ここにいる俺たちは、やつが見苦しく大地を転がり回るだけで虫のように潰されるのだ。
「おい、マズいんじゃないか――」
一人が口にしかけた矢先、ズズ、と決定的な振動が彼らの足の下で走った。次の瞬間に起きたことを正確に理解できた者はその場の半数にも満たなかった。まず、想像を絶する轟音があった。巨人の右腕を封じる鎖、その固定された周囲の大地そのものが爆ぜ割れた音だった。ぽかんとした顔のまま、そこに立っていた三人が宙に投げ上げられる。彼らが頭から墜落し始めるより早く、地盤つきの鎖が薙ぎ払われ七人を血煙に変えた。
(499文字)(続かない)