日刊ほぼ暴力#364

くぐもって聞こえる断続的な絶叫が、たすけてくれ、と繰り返していることに気がついた瞬間、少女はようやく放心から覚めた。同時にその顔がみるみる青ざめ、瞳に恐怖の涙がにじむ。
「あ、あう、ど、どうすれば」
目の前のトラップボックスから突き出た青年の両足は、壊れた玩具のようにバタバタと激しく暴れ続けている。彼の上半身は箱の中だ。サメの歯のような鋭い棘をびっしりと縁に生やした箱の蓋が青年の腹に噛みつき、閉じようとする力で今にも食いちぎろうとしている。
「おい、引っ張るぞ。手伝え」
もう一人の仲間が、哀れな青年の両足首を捕まえようとしながら少女に命じた。
「ひ、ひっぱ……? でも」
たすけて、という絶叫が再び箱の中から響く。たすけて、はやく、いたい。少女の思考力は焦りによって吹き飛んだ。一刻も早く彼を救出しなければ。言うとおりにしなければ……
「分かるだろ、おい。一回閉じちまえばトラップは解除されるんだ! 気の早い馬鹿が犠牲になってくれたお陰で、俺たちは中のお宝を安全に」
「ううっ……ううううーっ!」
少女は青年の腰にしがみつき、力任せに引いた。そうする以外に何も思いつかなかったからだ。頑丈な蓋はびくとも動く様子がない。後ろで仲間が力を加えたのが分かった。もっと強く、と少女が後ろに体重をかけた瞬間、ぶちぶちぶち、という音と手応えがあった。抱えている下半身が伸びたように感じ、そこからピンク色の腸がずるずると溢れ出る。と、ボックスの歯がそれを噛みちぎり、甲高い音と共に、目の前で蓋が完全に閉じた。少女は勢い余って尻餅をついた。

(654文字)(続かない)

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