日刊ほぼ暴力#306
開いたまま転がっているビニール傘が、彼女の顔を雨から守っていた。透明なビニール越しに見えるのは、目も鼻も口もない赤と白がいりまじった塊だったけれど、雨にうたれながら周りに投げ出されている身体のパーツを見るに、そこにあるのが頭であることは推測できた。俺は寒気を感じた。いつの間にか俺は土砂降りの雨を浴びてずぶ濡れになっていた。背後の通りを過ぎていく車のヘッドライトが路地の入り口へ差し込んでは消える。そのたびに俺の影が長く伸びて彼女に覆い被さる。
「俺のせいなのか?」
掠れた声で呟く。溺れそうなほどの土砂降りにも関わらず、身体の内側は砂漠のように乾いている。頭は非常に冷えている。これは濡れたせいだろう。何度か瞬きをして、思考を整理した。この傘は誰のものだ? 彼女のではない。血にも汚れていない。全てが済んだ後に、誰かがこれをここに置いた。奪った俺の傘を。
「俺のせいだと言いたいのか?」
あの時俺が彼女に傘を貸したこと。それが始まりだとするなら。
(419文字)(続かない)