日刊ほぼ暴力#341
折れた鼻から血を噴き出してその男は仰け反り、たたらを踏んだ。その背に壁が触れる。逃げ場はなし。いつの間にか、追い詰められていたのは男のほうだった。間髪入れず彼女は握りこんだ左拳を再び男の顔面に叩き込む。更に右! 左! 右! 左! 右! 執拗な打撃を受けてズタズタに歪んでいく顔。既に男の意識は飛んでいるが、倒れることすら許されず壁に繰り返し打ち付けられる。彼女に一切の躊躇はない。それどころか殺意さえあるかどうか怪しい。拳を握りしめた瞬間、彼女は同時に己の意識までも握り潰したようだった。骨を砕く。温かい血を浴びる。肉を潰す。それらの感触に取り憑かれたように機械的な動きを繰り返す。彼女の拳とて無事ではない。折れた歯や骨が薄い皮膚を裂き、突き刺さる。美しいエメラルドグリーンの細かな血飛沫が拳の残像を彩る。彼女はそれに気づかない。いつの間にか彼女が殴っているものは肉塊とすら呼べぬ、壁に貼りついた赤黒い何かになっている。
(405文字)(続かない)