日刊ほぼ暴力#323

重なりすぎて何が描いてあるかもわからない壁のラクガキを赤い血が塗り潰していた。小便とシンナーと濃厚な鉄の臭いが混じり合った最悪な空気に吐き気がする。踏みつけていた男の後頭部から足を下ろした。男は小便器に顔を突っ込んで動かなくなっていた。気絶しているのではない。死んでいる。殺した。殺したことは何度かあるので感触で分かる。多分背骨を折った。その前に窒息していたかもしれないが。
外からどやどやと近づいてくる品のない声がした。目の前の赤い壁に影が落ちる。振り向くと丁度入り口で立ち竦んだチンピラ三人と目が合った。
「あ」
「ヒッ」
「うえっ」
この辺りの町ではいくらでも見かけるような田舎臭い不良のガキの顔に、なかなかお目にかかれないような本物の「恐怖」の表情が浮かぶ。図体がでかいという理由だけで勝手にビビられていた頃は、「そういう顔」が疎ましかった。脅えていたかもしれない。今ではむしろ愉快になった。俺は笑い出したいのを堪え、映画で見たサイコ殺人鬼をイメージしながらそいつらを睨み付けた。

(439文字)(続かない)

いいなと思ったら応援しよう!