日刊ほぼ暴力#356
彼は天を振り仰いだ。乾いた晴天を覆い尽くす、驟雨の如き無数の矢。放物線を描いて彼の頭上へと殺到する鏃の群れを、彼は澱んだ無関心な瞳で見つめる。その指がふらりと持ち上がり、指揮者のように、あるいは見えない記号を描くように空をなぞった。次の瞬間、どこからともなく白い電光のような何かが宙を走った。それは矢の雨のただ中を駆け抜け、数十本の矢を空中で弾き飛ばして彼から離れた地面に叩き落とした。残りの矢は軌道を変えず、そのまますべて地面に突き刺さる。なかには彼の鼻先すれすれを掠めたものもあったが、彼は微動だにしなかった。掠り傷ひとつ負っていない彼の伸ばしたままの指へ、雪片の如くひらりと舞い降りたのは一羽の鳥。それが何と呼ぶべき種であるか、一目で言い当てることのできるものは稀であろう。なぜならその鳥には色づいた羽根もなく、肉もなく瞳もなく、声を発する喉もない。ただただ白い、骨だけの鳥。
「ありがとう」
鳥の小さい頭蓋骨を物憂げに撫で、それから彼は矢を射かけられた方角を見上げる。丘の上に展開した軍勢は、第二波を仕掛けてくることもなく沈黙している。恐れているのか。観察しているのか。村ごと焼き払うことも、飽和攻撃で押し潰すこともできなかった彼をどうすればこの世から消すことができるのか、必死に作戦を練っているのか。
「無意味なのにね。姉さん」
打ち崩された家屋が燻り、焼け焦げた死体の臭いが漂う村の中心で、彼はどこか恍惚としたように呟く。
(613文字)(続かない)