日刊ほぼ暴力#347
ひたひたと足首に冷たい波が寄せる。裸足の指が柔らかい砂に沈む。生き物の気配のない浜辺だった。それどころか屍の気配さえ。海草の屍。貝殻の屍。ここには何の跡もない。死に絶えるまでもなく、ここには初めから命が存在しなかったのだろう。
白い霧によって水平線と空とがぼんやりと曖昧に溶け合っているあたりを僕は眺めていた。海は永遠に続いているように見えた。けれど僕はその向こうから来たはずだった。3ヶ月と3日前に。さまざまな記録がそれを証明している。思い出せることは何もない。思い出そうとすることもいつからかやめてしまった。どのみちもうどこにも、僕の帰りを待っている生命は存在しないはずだから。
風が冷えてきたので、僕はジャンパーのポケットに手を突っ込んだ。空は白いばかりなので分からないが、もうじき夜になるらしい。サクサクと砂を刺す足音がしたような気がして振り返ると、野生のブリキ蟹がいた。蟹は8本の脚を忙しく動かして浜を横切り、僕が見ている前で真っ直ぐに海の中へ入っていった。透き通った波が触れるやいなや、ブリキの脚は微かな音を立ててみるみる細かい泡に変わっていく。それでも構うことなく蟹は進み続け、すぐに頭まで跡形もなく水の中に溶けて消えた。
こんな風な消滅を、僕はこれまでに5回ほど目にしていた。この島では機械さえ持っているらしい自殺衝動は、3ヶ月と3日が経った今も、僕を訪れない。
(586文字)(続かない)