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日刊ほぼ暴力

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・毎日更新。・400字以上。・暴力重点。・文章を書くこと、特に継続して書くことの練習としてやっています。
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2019年10月の記事一覧

日刊ほぼ暴力#304

「まだ、足りないな」
己の長い爪をねぶりながら、彼はうっそりと呟いた。目の前の壁には鏡。彼の巨体を頭から爪先まで収める大きさ。生々しいピンク色の肉が露出する醜いその身体の半分を覆い隠すように、ぼろぼろの包帯じみたものが巻き付けられている。
「でも、これで我慢しないと」
彼は爪を噛み締め、そこに染み付いた血と脂の味を感じる。……肉ごと皮膚を引き裂く時の心地よさ。命乞いが絶叫に変わる瞬間の快感。彼と同

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日刊ほぼ暴力#303

両前脚と首を切断された馬は、走り込んできた勢いのまま前のめりに転がって土埃を上げ、横倒しになって死んだ。その背には鎧武者の下半身が跨がったままだった。一秒経って、上半身が血を撒き散らして回転しながら降ってきた。ぼたり、とそれが倒れた馬の腹の上に着地するのを見届けてから、痩身の男は大太刀の構えを静かに解いた。大太刀、と呼ぶことさえ適切であるかどうか。その長さは、さして小柄とも見えぬ男の身の丈の、ゆう

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日刊ほぼ暴力#302

その女が手をかけて力を籠めると、牢屋の鉄格子はいともたやすくねじ曲がり、人一人が通れるほどの隙間を開けた。
「こんばんは。出てきたいなら、おいで」
微笑んで首を傾ける彼女をしばらく見つめ返し、やがて彼はそろそろと格子の隙間から這い出した。
「よかった。怪我はしていないね」
小さい窓から差し込む月明かりの下で見ても、女の白い腕は彼よりも細く、常軌を逸した力を持っているようには見えない。ただ一つ目につ

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日刊ほぼ暴力#301

丸太ほどもある拳が頭上を掠め、石壁に突き刺さった。ギャラリーから歓声があがる。轟音を立てて崩れる壁から、私は転がって距離を取る。破片が刺さったのか、左肩に違和感。立ち上がり剣を構え直すが、指先が痺れたように力が入らない。敵は壁から拳を引き抜こうとしていた。見上げるような巨体、というほどでもない。ただ、上半身が下半身に比べてアンバランスなほど大きい。しかも三百六十度自在に回転する。プロペラのように振

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日刊ほぼ暴力#300

暮れかけた太陽を映す茜色の泉の端で、踊り子は旅人の帰りを待っている。あの男は昨夜、森で迷ったと言って小屋にふらりと現れた。今朝、外が明るくなって道が分かるようになるとすぐ、町の方角へ出て行った。もう一度戻ってくると踊り子に言い置いて。きっと助けを呼びにいったのだ。同じことをした人間は今までに三人いた。戻ってきた人間は一人もいない。踊り子は彼を待っているが、明日になればすっかり諦めて、またいつも通り

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日刊ほぼ暴力#299

下らない町だった。下らない奴らだった。何もかも。金属バットに霧雨が伝う。薄められた返り血がスイカジュースみたいな色をして流れ落ちる。右手のバットも右足の踵もガリガリと音立ててアスファルトに引き摺りながら、俺は砕けたガラスまみれの路地を歩き始めた。道の両脇の廃墟みたいな建物の壁を這う配管の束は人間の手なんか届かないような高さに至るまでベコベコに凹んでいて、それがさっきの乱闘の時についたのか、それとも

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日刊ほぼ暴力#298

駆け込んだ部屋は行き止まりだった。追い詰めた、と思った瞬間、決死の表情で振り返った女と目が合う。女は胸元に抱え込んでいたファイルを振りかぶった。そして俺が身構えるよりも、俺の背後に付き従うドローンが警告の声を上げるよりも早く、放り投げた。
「な――」
百何十枚という紙切れが舞い上がり、一瞬にして視界を覆い尽くす。その広がりかたは自然なものではない。一枚一枚が操られている。動きはさほど精妙ではない。

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日刊ほぼ暴力#297

捻り上げた腕の骨がミシミシと軋む音を立て始め、男は泡を食ったように喋りだした。
「い……〈茨の魔女〉」
「魔女?」
「そう呼ばれてる。さ、三番街に根城があるらしい。騎士団と繋がりがあるとかで、随分好き勝手やってるが未だに狩られてない。やつについて知りたいなら、お、俺よりも〈青ネズミ〉に聞け。魔女絡みならここらで一番情報を持ってるやつだ。連絡は俺がつける」
「……必要ないな。そいつは俺の知り合いだ」

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日刊ほぼ暴力#296

「もう大丈夫だよ」
ひっくり返った椅子を直しながら、彼女は宥めるように言った。
「何も怖いことはないよ」
彼女がどんな顔をしているのか、私には見上げることができない。柔らかいカーペットを踏む彼女の細い脚と、落ちているトロフィーを拾い上げる細い手しか見えない。そのトロフィーは中学生の時、大きなピアノコンクールで彼女が賞を取ったときのもの。私も一緒に喜んで祝ったからよく覚えている。台座の角にこびりつい

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日刊ほぼ暴力#295

――踊れない爪先ならば、潰してしまいましょう。歌えない喉ならば、引き裂いてしまいましょう。

お母様は微笑んでそう仰いました。顔立ちの華やかさに欠ける私たちは日々たゆみなく鍛練し、身のこなしを磨き、優雅な声を保ち続けなければならないのです。そうして高貴なお方の心を射止めることができなければ、襤褸同然に打ち捨てられて老いさらばえてゆくことになるのです。私たちは必死に励みました。お姉様は私よりもずっと

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日刊ほぼ暴力#294

「ごぼッ」
溢れた血の泡が気道を塞ぎ、呼吸が出来なくなる。喉を爪で引っ掻いて悶えながら、男は血走った目を見開いて目の前にいたはずの女の姿を探した。
「眠るように、安らかに」
声は、背後から聞こえた。侮蔑と憎悪に満ちた艶やかな声。男はそのような感情を向けられる理由を知らなかった。殺されようとしているのは、彼のほうなのに。
「そんな風に殺してくれるのですって。どう? 心地いいかしら?」
「……ッ」

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日刊ほぼ暴力#293

墓石の上に背を丸めて腰掛けていた影が顔を上げた。薄汚れた長髪、手には酒瓶。中身は殆ど残っていない。
「やっと来たか」
その男は陰鬱に笑って俺を見た。空はあかがね色に染まり、墓場を囲む森は暗い。死に場所にしては辛気臭いが、この男にはお似合いだ。そう思いながら俺は腰の得物に手をかける。
「待ってるうちにこの世が終わっちまうかとヒヤヒヤしたぜ」
男は背骨がないようなぐんにゃりとした動きで仰け反り空を仰ぐ

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日刊ほぼ暴力#292

「いたぞ! こっちだ!」
怒鳴り声に背筋を凍らせながら少女は振り向いた。路地の入り口に人影、更に後ろから近づく複数の足音。獲物を狙う猟犬のような目は、真っ直ぐに逃亡者の姿を捉えている。
「ひ――」
「足止めんなっ、前だけ見ろ!」
恐怖に竦みそうになった少女の手首を強く引いて少年は叫んだ。少女は我に返り、道を塞ぐように散乱するゴミを飛び越えて再び走り出す。前を行く少年の背中は、狭く障害物も多い路地を

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日刊ほぼ暴力#291

首筋がひりつくような、微かな気配。彼はそちらを見もせずに銃口を向け、撃った。銃声、そして金属と金属の衝突音。夜闇に眩しい火花が散る。鉛玉に撃ち落とされ、歪んだ星形の飛び道具が離れた土に突き刺さる。手裏剣だ。
「出てこい」
彼は言った。銃口は逸らさぬまま。残響が少しずつ消え、静寂が広がっていく。ここは境内、すなわち神域。市井の喧騒は一切届かぬ。飛び道具の追撃が来る様子もなく、さりとて気配は逃げ出しも

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