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日刊ほぼ暴力

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・毎日更新。・400字以上。・暴力重点。・文章を書くこと、特に継続して書くことの練習としてやっています。
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2019年9月の記事一覧

日刊ほぼ暴力#273

心臓へと真っ直ぐに突き込まれた槍は、彼女の胸を浅く削っただけだった。軟体動物のような身体の軟らかさで、殆ど背中が折り畳まるほど彼女は身を反らし、地面に両掌をついた。男の視界からは一瞬にして彼女の上体が消えたように見え、その短い狼狽が判断を鈍らせる。
「……っ!」
直ぐに危険を察知し、男は後退しようとする。だが遅い。唸りを上げて跳ね上がった爪先が槍の柄を打ち据えた。最初に右足、瞬く程の間をも置かず左

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日刊ほぼ暴力#272

宙を貫いて飛ぶ9x19mmを、彼ははっきりと視認していた。凍りついたようなマズルフラッシュ。時は止まっていない。ただ非常にゆっくりと進んでいる。緩慢に回転する銃弾に刀身を優しく沿わせ、彼はその軌道をほんの僅かに変えてやった。直後、時間が速度を取り戻す。硬質な音が弾け、銃弾は彼の右耳の数センチ横を、髪を軽く揺らしながら掠めていった。敵は信じがたいものを見たように一瞬呆気にとられた。その時には既に、彼

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日刊ほぼ暴力#271

「ギ、ギギッ」
目の前に翻った彼女の髪を、彼は反射的に掴んでいた。手のひらに開いた口の中へ、長い黒髪はずるりずるりと吸い込まれ、そのまま消化液に融かされていく。すぐに根元まで到達し、温かい頭皮に触れる。構わずに吸い込み続ける。ぐじゅり、と軟らかい音を立てて頭部の丸みが崩れていくのが分かる。
「ギッギッギッ」
手のひらから流れ込んでくる融けた頭蓋骨や脳味噌の味に、彼は首の後ろの発声器官から歓喜の声を

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日刊ほぼ暴力#270

背中にガラスの砕ける感触。両足は既に床を離れている。逃れようとする奴の肘を掴んで俺は離さなかった。地上数百メートルの空中に二人揃って投げ出される。重力が当然に俺たちを捉え、逆らいようのない落下が始まる。血走った眼光が交差する。互いの目の中に読み取れた意思はただ一つ。
((お前が先に死ね))
襟首を掴まれた、と思った次の瞬間視界が白く飛んだ。額に頭突きを食らわされていた。平衡感覚が眩み、自分が上を向

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日刊ほぼ暴力#269

「あんたの神に祈りなよ。それくらいは待つ」
女は美しい翠の目を細めて彼を見下し、言葉とは裏腹に彼の額へ銃口を押し付ける力を強めた。そう捩じ込まなくてもいいだろうに、これでは痣になってしまうだろう。軽い抗議の意を込めて彼は眉を上げ、答える。
「……お優しいことで」
「機嫌がいいんだ、今日はね」
女は憐れむように微笑み、銃を握っていないほうの手の甲を掲げてみせる。小指の華奢な指環がきらりと光る。この暗

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日刊ほぼ暴力#268

左腕を掴まれた、と感じた瞬間、靴の裏に火花が散る勢いで彼は反転し、突き飛ばすように敵の鳩尾を銃床で殴り付けた。思わぬ速度の反撃を正面から食らって、よろめいた敵はそのまま運悪く足を踏み外した。腕を振り回しながら線路へと落下、走行する列車の車輪に絡まり瞬く間にミンチへと変わる。潰れた悲鳴の余韻が消える間もなく、新たな追っ手の銃声が響いた。続けて二発、三発。激しく揺れる列車上ゆえに狙いは大幅に逸れるが、

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日刊ほぼ暴力#267

「ウウ、ウワアアアーッ! アアアーッ!」
自棄糞めいた叫び声を上げながら列を外れて一人の囚人が飛び出した。何度も無様に転倒しては立ち上がり、砂埃にまみれた道を逸れて崖へと走っていく。他の囚人は顔を上げもしない。ちらりと横目で窺う者もいるが、すぐに目を伏せる。何が起こるかなど分かりきっているからだ。極度の恐怖と疲弊が彼らから抵抗する意思と体力をすっかり奪っていた。
囚人を護送する警官たちさえもまた、

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日刊ほぼ暴力#266

「テメェ……やっとだ……やっと……畜生」
荒い息を吐きながら、男は少女の絹糸のような黒髪を掴んで引きずり起こした。少女はもはや抵抗することができない。四肢を根元から切断されているからだ。醜い切断面からバチバチと火花が散る。男は歯こぼれしてギザギザになった剣を少女の首に突きつける。銃弾は全て使いきり、もはや武器はこれだけだった。
「観念しろやオラ……!」
歯ぎしりと共に力の限り刃の先端を押し込む。切

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日刊ほぼ暴力#265

白昼の街を引き裂く銃撃音。砂埃のノイズに白く掻き乱された視界に、鮮やかな血の花がまた一つ咲く。逃げ惑う民間人の悲鳴とちらつく火の手の橙が、彼の臓腑を否応なく昂らせる。屋根の上で身を低めたまま、彼はそれらの光景を見下ろしている。よれて色褪せたスーツ。ひょろ長い手足と血色の悪い顔。その首には太い重金属の首輪が巻き付けられている。喉元の電子錠を爪で引っ掻きながら彼は苛立たしげにインカムへと唸る。
「映像

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日刊ほぼ暴力#264

「わりいわりい。ちょっと時間食ってさ」
ほとんど夜が明けるころになってようやく現れたそいつは頭から地獄の血の池にディップされてきたみたいな有り様をしていたので、あまり他人の見た目など気にしない俺でさえさすがに突っ込みを入れざるを得なかった。
「お前、また髪染めた?」
「え? まあちょっと成り行きで」
「それとそのシャツ昨日も着てたな。色は白だったはずだが」
「今日洗濯するからいいだろが。それより仕

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日刊ほぼ暴力#263

糸は絹のようになめらかで美しく、そして決してほどけることも切れることもなかった。強くもがけばもがくほど、全身に深く何重にも食い込んだ糸はきりきりと肉を締め上げ、血管を潰して四肢を黒く腫れ上がらせた。抵抗が無意味だと知った彼はすぐに動きを止めたが、その時には既に気道が殆ど塞がれていた。ひゅうひゅうと笛のような息と血の混じった泡を吐きながら、彼は狭まっていく視界を見渡す。見下ろす畳の上には、雑巾のよう

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日刊ほぼ暴力#262

彼は立ち上がった。そして世界は夜になった。広大な彼の背中の後ろに、燃え残りの太陽は隠れ、やがてジュウと音を立ててその命もろとも消えた。彼の長くながく伸びた影は見渡す限りの地平を覆い、あらゆる光はその闇の底に隠された。つまりそれが夜だった。彼の掌の上で、虹色の髪の子どもが笑った。その少年は輝く無垢な瞳で、ちっぽけな人の町や、森や、彼の脛を浸す黒い海を見下ろした。
「いつか、こうしてきみの上に乗せても

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日刊ほぼ暴力#261

振り回された巨大な尾が地表を薙いだ。土を、岩を、そこにあったあらゆる起伏を削り取り、家でも建てられそうな平地へと作り替えていく。
「まるで重機だね」
彼女は空中で呟いた。尾が直撃する寸前、直上に高く跳躍して回避している。両手には二本の短剣。彼女の相対する敵にとってみれば、縫い針程度にも満たないちっぽけな凶器にすぎなかったが。
「おおっと」
彼女の真下を右から左へ薙ぎ払っていった尾が、慣性を無視した

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日刊ほぼ暴力#260

椅子に拘束された男の額にはびっしりと玉の汗が浮かんでいる。男は濁った片眼を見開いて瞬きもせず苦痛に耐えている。もう片方の眼球は眼窩から中途半端に引きずり出されたまま、剥き出しの神経を晒してぶら下がっている。
「やれやれ、これでもう針が尽きちゃうよ。いい値段のする毒を使ってるんだよ、これ」
皮膚を剥がれた男の手の甲に、腹の突き出た中年の拷問官は太い針を埋め込む。同じような針が、神経に沿って既に何本も

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