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日刊ほぼ暴力

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・毎日更新。・400字以上。・暴力重点。・文章を書くこと、特に継続して書くことの練習としてやっています。
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2019年1月の記事一覧

日刊ほぼ暴力#31

2019年1月!! 突如として列島を覆い尽くした謎の殺人ウイルス、インフルエンザDEATH型の猛威により、日本国は死屍累々の焦土と化した!!!
流行発生当初は通常のインフルエンザウイルスと見分けがつかず、感染者が出社を強いられる等の杜撰な体制によって瞬く間にパンデミックを引き起こしたそのウイルスは、高熱・倦怠感等の一般的な症状の陰で感染した者の脳をじわじわと侵食し、数週間後には凶暴なるゾンビと化し

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日刊ほぼ暴力#30

「あれぇ、リコ、こんなトコでバイトしてたの?」
聞き覚えのある声に、私はぎくりとして顔を上げた。すらりとした長身の女性がこちらに笑いかけていた。蛍光色のスポーツウェアの上下に身を包み、右手にぶらりとバスタードソードを提げている。その全てが血まみれだ。キャンパスで会う時の彼女とはかけ離れた外見だったが、その華やかな顔立ちを見れば彼女が誰なのかはすぐに分かった。
「サオリ先輩……」
「あー、平気、平気

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日刊ほぼ暴力#29

がんっ、と木剣と木剣の衝突する鈍い音がした。弾かれたのはやはり僕のほうだった。剣を持つ両手が跳ね上げられ、胴体が無防備になる。あっ、と声を上げそうになったが、寸前で堪え、かわりに歯を食いしばって腹筋に力を込める。次の瞬間、その腹に重たい蹴りが入り、僕の身体は軽々とボールのように後ろへ吹っ飛んだ。柔らかい庭の土に叩きつけられ、ごろごろと転がり、積まれていた藁の山に突っ込んでようやく止まる。
「おいお

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日刊ほぼ暴力#28

そいつの掌はゆっくりとアスファルトに叩き付けられた。いや、実際にはそれは、特にその指の先端は音速にも届くかというほどのスピードだったのだが、あまりにも巨大すぎるために、その動きはゆっくりと押しつけるようなものにしか見えなかった。
その中指に触れた途端、高層ビルはトランプでできたタワーのようにくしゃくしゃと崩れた。凄まじい音がしたのだろうが、俺の耳はしばらくの間麻痺していたので分からなかった。無音の

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日刊ほぼ暴力#27

駆け込んできたのは、背の低い女だった。外の豪雨の中を傘も差さずに走ってきたのか。ずぶ濡れのパンツスーツがぴっちりと身体に張りついている。
「あ……あのぉ」
女はエントランスホール入り口から数歩入った所で立ち止まり、ホール内の随所に直立不動の姿勢で立つ黒服の男たちを順繰りに見回した。その背後でゆっくりと扉が閉じた。
「人を探してるんですけどぉ」
童顔で、声も幼い。豪奢なホールの中でひどく場違いに見え

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日刊ほぼ暴力#26

打撃を刀の腹で受け止めた、と思った瞬間、左足が斜面を踏み外した。あっという間もなくバランスを崩し、草の生えた土手を転がり落ちる。
「マズ……」
回転する視界に、追ってくる2人の姿。歯を食いしばり、刀を持っていない左手を鉤のように土に突き立てる。強引に斜面の中途で停止、地に貼りつくような低姿勢のまま刀を一閃。
「ギャァッ!?」
斜面を駆け下りていた追っ手自身の勢いも手伝って、力の乗りきっていない攻撃

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日刊ほぼ暴力#25

近付いてくる拳の速度はひどくゆっくりとしていた。いや、おれの思考が高速化しているのか。全ての知覚が信じがたいほどクリアになり、眼前10センチに迫る奴の拳の、指関節の背の皺の数まではっきりと数えられた。おれは身体を捻った。その動きもまた緩慢に感じられたが、奴の拳よりは早かった。横向いたおれの鼻先を拳が通り過ぎた、そう思った瞬間、時間感覚が元に戻った。ブン、と鼻先に風圧を感じる。奴は自分の攻撃が空を切

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日刊ほぼ暴力#24

俺? 3人殺したよ。嘘じゃねぇって。最初に頭撃てたのはマグレだったけどさ。そのあとナイフで2人やった。あんま覚えてねぇんだけど。ずっと口開けて叫んでたから、返り血がザブザブ入ってしょっぱかった。その後、爆発? なんかすげえ音がして、ブン殴られたみてぇな気がして倒れたんだよな。それからたぶん、相当気絶してた。目ぇ醒ましたら、もう何の音も聞こえねぇの。顔上げても真っ暗だし。俺、死んだのか? と思ったん

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日刊ほぼ暴力#23

「父さん。カップ麺、醤油と味噌とシーフードあるけど、どれがいい?」
大声で呼びかけたが、返事がなかった。リビングからは下世話なワイドショーを流すテレビの大音量だけが聞こえてくる。仕方がないので適当に味噌とシーフードを選び、蓋を開けてお湯を注いだ。冷蔵庫に貼り付いている、何かのキャンペーンで貰った物だろう、全く可愛くないキャラクターの形をしたタイマーを3分後にセット。
「父さん?」
もう一度呼びなが

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日刊ほぼ暴力#22

ガン、と乱暴に屋上の扉を蹴り開け、校舎内へ飛び込む。勢いのままに眼前の階段を飛び降りようとし、刹那、顎の下から殺意が跳ね上がった。
「……ッ!」
靴底を擦り急制動をかける。下方から振り抜かれた短槍の先端が、私の顔面数センチ前の空を切った。断たれた前髪が数本、はらはらと宙に舞う。――思いの外、好戦的な相手だ。私は大鎌の柄で、続く石突の殴打を受け止めた。敵は階段の数段下にいる。位置は私の方が有利だ。相

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日刊ほぼ暴力#21

「フウーッ……フウーッ……!」
「オイ。もうやめろ」
左肩に手が置かれた感覚で、俺はやっと我に返った。興奮状態が醒め、視界を覆っていた赤い靄のようなものが急速に薄らいでいく。クリアになった眼前にあったのは、黒く炭化したボロクズのような何かだった。白い歯がいくつか、潰れたその中に埋もれているのが見える。歯は俺の両拳にも5本ほど突き刺さっていた。血まみれの拳はガタガタと震えていて、痛みは感じないのに握

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日刊ほぼ暴力#20

俺は右拳を奴の腹に叩き込んだ。厚い脂肪に阻まれ、内臓に衝撃が通らない。奴は嫌な笑みを浮かべた。そして脂肪にめり込んだ俺の右手首を掴み、ドアノブのように捻った。肉と骨の壊れる激痛があった。俺は鼻水を垂らして泣き叫びながら仰け反り、闇雲に頭突きを振り下ろした。奴はガキの喧嘩でも収めるように、もう片方の手で軽々と俺の額を受け止めた。次の瞬間、凄まじい重さの膝蹴りが俺の腹に叩き込まれた。
「……!」
俺は

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日刊ほぼ暴力#19

「……」
「……」
二人の男は数メートル離れて向かい合い、腰のホルスターに手をかけたまま睨み合った。ひとりはハットを斜めに被り、にやにやと余裕の笑みを絶やさぬ小柄な男。もうひとりは派手なチョッキを厚い胸板で膨らませ、赤ら顔を憤怒に顰める猛牛めいた男。白昼の空の下、乾いた風が鳴り、カラカラと枯れ草が転がってゆく。
サルーンの客たちは窓や入り口に詰めかけ、表で始まろうとしている決闘の行く末を固唾をのん

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日刊ほぼ暴力#18

彼女は椅子の上に立って爪先立ちになり、天井についた血の染みを懸命に拭おうとしていた。
「ンなとこまで拭かなくていいだろ」
アタシは言った。
「どうせ、アレだろ。血とか、拭いてもバレちまうんだろ。薬品か何かで」
「でも、すぐにはバレないよ」
彼女は手を止めず、冷たそうな濡れた布巾で染みを擦り続けた。揺れ動くそのスカートと形のいい尻をアタシはぼんやりと見守った。チカチカッと、天井で切れかけの蛍光灯が何

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