架空の恐竜展 (2016.2-2019.5)
20年間、恐竜展に足を運ばなかった。
小学1年生の頃、読売新聞の販売員が持ってきたチケットに描かれた絵に発奮し、開催まで毎日のように親にせがんで観に行ったものは、ドイツを経由してアフリカからやってきたブラキオサウルスの完全骨格だった。幕張メッセが建つ5年前に博物館ではなく新宿駅の南口、まだ空き地になっていた場所に大きなテントが建ち、そこで大々的に恐竜展が開かれたのだ。まだ背丈100cmちょっとだった小学生の目には全高11mの竜脚形類はひたすら巨大に映り、僕の家に届くスーパーのチラシの裏は恐竜でいっぱいになった。
数年後。そのブラキオサウルスが最新のCG技術で再生され、スクリーンで蘇った頃にはそれらにいっさいの興味を無くしていた。数少ない骨格標本や適当に描かれた挿絵から絶滅した動物を想像するのが楽しかったのに、まるで生きているかのように表現されることに何処かつまらなく感じてしまったのかもしれない。
さらに言うと、恐竜やそれを元にした怪獣よりも魅力的なカルチャーが自分の前に現れはじめたのだ。
幾年月が流れ、そんな狂騒もひと段落したときに「いまさら」じぶんのネット音楽レーベルを立ち上げた。
EDMだのアイドルだのトラップだの全盛期に、なんとなく絶滅しそうな電子音楽を保護しようと思ったのかどうなのか、レーベルのマークには恐竜とおなじく絶滅動物のマンモスを描いた。レーベル名に「New」とつけているのに既に現存していない動物、我ながらおもしろいじゃないか。
恐竜展にふと興味が戻り、幕張に足を運んだのはそのまたしばらく後の夏だ。展示の目玉である(ブラキオサウルスとおなじぐらい大きな)トゥリアサウルスの半身を観て思ってしまった「あれ?こんなんだっけ?」と。
帰りに空いてる近所の古本屋を営業時間ギリギリまで行き、そこで売っている恐竜展の目録を片っ端から買い漁った。
1週間も経たぬ間に本棚の一角が20年間行かなかった恐竜展の背表紙でいっぱいになった。
長く続いている漫画のキャラクターが第1巻と最新刊で見比べるとまったくの別人に映るように、かつて図鑑で見ていた恐竜も姿はおろか名前まで変わっていたりする。子供の頃に見たブラキオサウルスは、いまはギラッファティタンという名前に変わっていたし、同時に展示されていた始祖鳥も、黄色と青の鮮やかな想像図から真っ黒いカラスのような色に変わっている。さらに鳥は恐竜の子孫どころか恐竜そのものだと聞く。するとフライドチキンは恐竜の肉なのか。なんてこった。
このページは2015年末から2018年秋まで音楽情報フリーペーパー『UNGA!』(現在は休刊)で続けた連載をまとめ、2019年にZINEにしたものの再録である。
本内容が少しでも気にいったら是非是非、お近くで開催の恐竜展か博物館に足を運んでいただきたい。
※このスピノサウルスは2016年に描いたもので、尻尾の形状が最新ではない事をご了承ください。
最後に、2017年夏に企画・制作した電子音楽/テクノ/ブレイクビーツのコンピレーション・アルバムをご案内させていただく。”ある種のエキゾ空間だったかつての恐竜展と、いまなお驚くべき発見が続いている現在の恐竜学研究”がテーマとなっており、カセットテープという媒体で限定販売した(現在は完売)ので、各参加者には収録時間の都合3分という題目で作曲してもらい、曲のイメージにあった恐竜の学名を曲名とした。参加者の全員が恐竜に深い興味があるわけではないが、曲調も恐竜の種類どおりバラエティに溢れる仕上がりになったと思う。